第2話 ランダム転移


 「セイジお前、友達の俺を何殺してんだよ」


 「いやぁ、死にかけてたのは事実だし?」


 「そんな漫才はいいから。それより柊木くん、これからどうするの?」


 「え、なんで俺?」


 「そんなのセイジがリーダーだからでしょ!」



 なぜか勝手に俺がリーダーになって、次の行動を決めることになっていた。


 そんな俺たちが今いるのは、どこかのかはわからない洞窟の中。そこで俺、リョウタ、杵塚 リサコ、新田 レナの四人で一緒に行動を共にしていた。


 元々俺は一人この洞窟に飛ばされたのだけど、色々あってこの三人と合流したわけだが。

 仕方ないので少しそのことについて話しておこう。




 ◇ ◆ ◇




 床一面が光り輝いて完全に目を開けていられない状態になった時、俺たちは多分飛ばされた。それも違う世界なのか、違う場所なのかはわからない。

 しかも最初は目が開けられなくて気づかなかったが、クラスの連中とは別の場所に。それが俺一人だけなのかどうかはわからない。


 もうわからないことだらけなので、ここらで考えることはやめた。


 そうして少しずつ時間が経って目も次第に開けれるようになった時、周りを観察したところ、今俺がいるのが洞窟の中だった。

 まだしっかりとは目が慣れてないのだが、さすがに壁も床もそれに天井すらも土や石でできている場所なんて洞窟以外の何物でもない。ただ、有難いことに洞窟内ではあるのだが、壁とかがうっすらと光を放っていたおかげで、動きやすくはある。


 まずはこれからどうするのかだが、元の場所に帰るためにこの洞窟からの脱出を考えている。でも、土地勘もない場所なので、これはすぐには無理だと思うから気長に行こうと思う。

 それなら次にここで当分生活するにあたって、寝床の確保…はそこら辺に適当でいいとしても、食料や水が必要になってくる。食料は出口を探すついでに探せばいいだろう。

 それに幸い、水に関しては属性魔法があるのでなんとかなる。ただそれでも、いざって時に魔力切れで魔法が使えないってことにならないように、注意する必要はあるが。


 属性魔法が使えるので、洞窟内で寒くなっても火魔法で解決できる。が、これも頻繁に使ってると酸欠になるかもしれないので、本当に必要な時だけにする。

 それでも今この時だけは、初めて過去の自分に感謝をした。子供の頃に怒られながらも、勝手に爺ちゃんの書斎に侵入しては魔法の勉強をした俺、グッジョブと。


 ある程度方針も決まったので、とりあえずはこの近辺の調査からしようと思う。


 今は俺がいるのが人一人が生活するには十分な程度の広さのある場所。ここは拠点として使うにはいいかもしれないので、戻ってこれるように道は忘れないようにしよう。


 この空間の外は、変わらず薄暗い洞窟の道が続いているようだ。少しは期待していたんだけどね。


 とりあえず、この洞窟内に危険がないか調べるのが先か。


 もしだが、もし、あの時教室で誰かが言ったようにここが地球ではなく異世界だったら、この洞窟内には二次創作の中だけの存在としていた生物とかがいるかもしれない。

 それがいないで普通の地球に棲息している生物がいれば、ここは地球のどこかの洞窟だということになる。俺としてはそれならそれで、家へ帰るのができるのでいいのだけど。むしろ、そっちの方が俺としてはいいのだけれど。


俺がいた部屋の出入り口は一つだけ。そこから先は右と左に分かれた一本道の通路のみ。

正直どちらに行くのが正解かはわからない。なので適当に行くことにする。



「まずは右からだな」



 それから数分歩いたところ、俺は確信した。ここは異世界なのだということを。



 「グルラァ」



 まず鳴き声。こんな変な鳴き声の生物、地球で暮らしてきて聞いたことがない。もしかしたら、俺が知らないだけで、海外には同じ鳴き声の生物がいるかもしれないけれど、それならそれで俺が無知だったというだけで安心できる。

 しかし、さすがに見た目だけは誤魔化せない。二足歩行をする犬のような見た目をした生物なんて地球には存在しない……はず。

 俺もそれなりにラノベとかアニメとか見るのでわかるのだが、多分だけど、こいつはコボルトとかいう名前の生物な気がする。


 そしてここが重要なのだが、そのコボルト、実は一匹ではない。

 今、俺の目の前にいるのだけで五匹はいる。


 もし、俺も同級生たちと同じで魔法がまだ使えない状態だったら、俺はきっと今すぐ逃げ出していたところだった。しかし、俺は既に魔法が使える。それも民間人は禁止とされている攻撃魔法すらも。なので、恐れることはない。



 「…だけどさ、異世界で最初に出会う魔物と言えば、普通ゴブリンとかスライムじゃないの?コボルトとかゴブリンより強いよね?ってお前らに聞いたところでえええ」


 「ガァ」



 人がせっかく話しかけているのに攻撃してくるとか、やっぱ異世界生物とは意思疎通できないのかな。


 そんなバカなことを考えながらも、すぐに魔法を発動させた。

 今回使うのは、遠距離からぶっ放すものでもいいのだけれど、とりあえずはこの魔物の強度がどの程度なのかを調べたいのもあるので、魔力による身体強化だけにしといた。


 体内魔力を循環させ筋力を引き上げて、物理的な攻撃力と防御力を上げる。これは高校で習う防御魔法の応用でもある。

 高校では筋力に作用させるんじゃなく、体の周りに魔力の膜を張ると教えるので、一般の人では知りえないことではあるけど。


 そうしてコボルトと殴り合うこと数分。なんとか俺は勝利を収めた。


 なんてちょっと大げさに言ってみたけど、実際は魔力強化して戦ったらそんな苦戦するような生物じゃないことがすぐに判明した。

 動きは確かに少し速く感じるけど、魔力で強化した視覚ではっきりと見えるから攻撃は避けられるし、逆にこっちは当てれば簡単に吹っ飛ばせるし。

 一応、その過程で生物に手をかける感触も味わっておこうと思ったが、案外なんてことはなかった。

 そりゃあ、やるかやられるかの二択なんだから迷う必要なんてないしな。


 ただ一つだけ、手に残る感触だけはちょっと気持ち悪かった。

 ただ首をへし折るとかそんな程度でいいところを、殴っている時に勢い余って体を素手で貫いてしまったんだから、そりゃあ気持ち悪いよな。


 すぐに水魔法で手についた血は洗い流したので、今は綺麗になっている。

 服は…見なかったことに。




 あれから少し歩き回ったが、特にこれといって大したものはなく、元居た場所に戻ってきた。

 大したものはなくとも、ちゃんと食料は手に入れている。


 初めて戦闘して倒したコボルト五匹分の血抜きした肉、コボルトの後に遭遇した凶悪な顔つきをした人の顔ぐらいの大きさのコウモリの肉、ちょっとした水辺の近くに生えていたよくわからない草、その他諸々。


 きっとこれらを普通の感性を持ち合わせている地球人が見たならば、食って大丈夫なのかと心配することだろう。俺だって大丈夫なのか心配している。

 できれば、普通の鳥とか牛とかの肉のが俺もいいけど、そんなものここにはないし。それに確か海外では一部ではあるが犬やコウモリを食べたりするって聞いたこともあるし、もしかしたらって考えて、俺は捨てるんじゃなく食べることにして持ってきた。


 もし食べてまずかったとしても、食べれるのであれば今は我慢すればいい。

 もしこの洞窟から出ることができて人の住む場所に行くことができたら、その時に美味しい食事を頂くことにする。いくら魔法でも美味しい食材を出すことはできないしな。


 俺がここに来てまだ数時間しか経っていないと思うけど、ちょうど昼時ではあるし食事にしよう。今持ってきたこれらの毒味をするのにもちょうどいいだろうし。

 毒味をするというのにこんなにも軽いのは、全て魔法があるからとしか言えない。


 魔法には主に、攻撃、防御、治癒の三つに分かれる。その内の治癒に解毒魔法というのがあり、それを使えば使用者の技量にもよるが、猛毒だろうがすぐに治すことができる。


 そんなわけで、さっそく調理――とは言ってもただ焼くだけだが――をして実食といこう。



 「う…」



 まずい…。なんだこれ。

 非常に筋張ってる上に獣臭くて美味しくない。

 食料がこれしかないから仕方なく食うけど、もしこれ単体で食べていたら正直吐き出したいと思ってしまうほどだ。なんかよくわからない草があったおかげで、我慢すれば何とか食えるものになっているのが救いか。


 俺はこの日この時心に誓った。今後何があろうとコボルトは絶対口にしないと。その代わり、コウモリは部位によるのだろうが、それなりに食えた。

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