突然異世界転移させられたが、魔法が使えるのでなんとかなります
燿玖
第1話 魔法のある世界
魔法というものが、夢物語とされていたのはもう過去のこと。
今はその魔法が社会に溶け込み、俺たちの生活の基盤の支えにもなっている。
魔法が一番初めにこの世界に現れたのは、今から七十年程前。どちらかと言えばここ最近の出来事と言える。
どういう経緯で現れたのかはわからない。でも魔法の登場により、当時は世界が大荒れした。それは誰でも思いつくように、魔法の軍事利用による戦争の再熱と過激化。
俺の爺ちゃんも、この時代では珍しくその戦争に参加したと言っていた。
そんなこともあって、今では魔法には制限を設けられることになっている。主に攻撃的な魔法の使用は、軍関係でしか取り扱いできないようになり、もし民間人が使用するようなことがあれば、重い罰を受けることになる。
なので、民間人の扱える魔法は、防衛に使用するものや生産に役立つものしか使うことができない。
そして、魔法が生活の一部に加わったことにより、学校での授業の一つに魔法も組み込まれることになり、今では小学生から魔法についての授業が行われている。
それは段階的で、小学校では知識程度のことを、中学校では自分の中にある体内魔力量の測定や魔力のエネルギー利用についてのことを、そして高校になってようやく魔法の使用が可能となる。大学では特にこれ以上のことはやっていなくて、これらの延長線上のことを授業でやっているらしい。いわゆる復習というやつだ。
俺、柊木 セイジは、今年念願の魔法を扱えることになる。
扱うだけなら、正直いつでもできた。しかし、高校生になっていないのに「なぜ扱えるのか?」という疑問を周りに与えないために、これまでは使えないふりをして生きてきた。
これは全て爺ちゃんとの約束だ。この約束をもし違えたりしたら、俺は爺ちゃんに叱られてしまう。
今年でもう八十になるっていうのに、衰える気配のない爺ちゃんは怒ると結構怖い。
そもそもなぜ俺が魔法を使用できるのか。
それは、俺がまだ小さなの時に爺ちゃんの書斎に無断で侵入して、そこにあった過去の様々な書物を読み漁ったからだ。そのほとんどは難しい本だったのでわからないものばかりではあったのだが、子供ながらに魔法という文字が書かれている本だけは、食い入るように見て何とか理解しようとした。
そのあとすぐに爺ちゃんに見つかったので、俺がその時見れたのは一部だけだったのだが、また違う日に何度かこそこそと侵入を繰り返した結果。俺は小学生にして既に魔法が使えるようになっていた。それも攻撃魔法含めて。
実は爺ちゃんの書斎にあるそれらの本は、軍に所属していた時に隠れて写本したものなんだって。だからもしバレたりしたら大変なことになる。
なので、俺は今までバレないように生活してきた。
それでも少しヒヤッとした時はあったけど。
高校入学して、魔法の授業で最初に行われることはどこの学校でも同じで、魔法使用による注意点などについてだ。
正直これは小学校でも中学校でも同じことをしたので、飽きている人が多い。
みんな二次創作のような魔法を使って冒険をするようなことをしてみたいのだろうけど、正直この世界ではそんな夢物語が叶うことはない。
そもそも魔物なんていう危険生物はいないし、いたとしても今のこの世界の軍事力の前では敵ではないだろう。
裏で生物実験を行っているなんてことはあったらしいけどね。
それとダンジョンなんてものも今のところ見つかっていない。
もし見つかれば、きっとみんなの望むような冒険ができるだろうけど、それにはまず国が攻撃魔法の情報の開示と使用許可を出さないことには意味がないと思う。
一方的にやられることがお望みならその限りではないけど。
「なぁ、セイジ。いつになったら魔法使えるようになるんだろうな」
今話しかけてきたこいつの名前は羽柴 リョウタ。この学校に入って一番最初に仲良くなったやつだ。と言ってもただ単に席が前後だったからなんだけど。
「今日は注意事項や説明だけだろうし、次はきっと魔力操作の練習になると思う。それに魔力操作はそんな簡単にできるものでもないだろうから、それが数日続くと思うぞ。それが終わればやっとじゃね?」
「うへぇ、マジかよ。先は長いなぁ」
「ま、そういうこと。それに魔力操作ができないと魔法もうまく使用できないぞ」
「そうなんだ。あれ?でもなんでセイジはそんなこと知ってるんだ?」
少し話過ぎたかもしれない。ここは誤魔化しておくことにしよう。
結局その日の魔法授業は、俺がリョウタに言ったように注意事項と魔法の説明だけで終わった。
俺ら民間人が使える魔法の種類はいくつかあるが、授業のメインとなるのは自衛目的の防御魔法だ。
防御魔法は比較的簡単で、魔力を体の周りに覆わせて外的からの刺激を弾くようにするというもの。ただ、これは学校で教えるようなもので、極一部でしかない。
一応魔法には、体の中から外に出すような攻撃魔法や外に出して尚且つ手を加える属性攻撃魔法、そして他人の体に直接作用するような治癒魔法などもある。前二つの攻撃は民間人には非公開であるし、後ろの治癒は民間人でも習うことができるのだが、専門の学校に通わないとならない。
ちなみに本来の防御魔法は、体内魔力を全身に循環させて筋力を強化させるものだ。
実はこれをアスリートが使用するのは良しとされている。それにも理由はあって、日本以外の国は魔法の競技使用の許可を出しているので、必然的に日本も出さざるを得なかったというわけだ。そうしないと、世界大会競技で日本は毎回ドベになってしまうから。
なので、今の様々な競技の世界大会は、びっくり超人競技大会と化している。
こんなに魔法のことばかり話しているが、今の時代の学校の授業が全て魔法になったわけではない。なので、他の授業ももちろんある。
ただ、そうは言っても高校に入学したのだから早く魔法を使いたいと思ってしまうのも理解できる。
「でもな、リョウタ。なんでそんなやる気なくしてるんだよ」
「やる気なくなるだろこんなの。すぐに魔法を使う授業が行われると思ったらこれだぞ?やってられるかってんだ」
「まぁわからなくもないがな。それよりも次の授業の支度しろよな」
休み時間だからか愚痴を言うリョウタ。だが、何もリョウタだけがこうなっているのではない。周りにいる――特に男子に多い――同級生たちは先程の魔法の授業を終えてから、見るからに落胆していた。
「はぁ~、これなら魔法が使える世界になるんじゃなくて、魔法がある世界に異世界転移された方がよかったんじゃね」
その時、誰が言ったかわからなかったが、俺の耳にそんな声が聞こえた。
そして、その誰かの声に応えるかの如く、教室の床一面が光り輝きだした。
それによって教室内は騒がしくなった。
パニックに陥るもの、色めき立つもの、先生を呼びに行こうと行動するもの、人によって様々な反応をみせた。
そして目の前にいるリョウタは……
「うぉ!これってもしかしてもしかする感じか?!」
物凄く興奮していた。
まぁ異世界行って無双できたら楽しそうだもんなぁ。
「なぁ、セイジ。異世界行ったら一緒に旅―――」
それが俺がその時聞いたリョウタの最後の言葉だった。
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