第18話

 まさか百合と、また二人で歩く日が来るとは思ってもいなかった。


 「ねぇ。私とよりを戻さない?」


 「・・・・」


 俺と、どれだけよりを戻したいのだ?


 「答えないってことは、オッケーって――」


 「そんなわけあるか!」


 「なんでよー」


 口を膨らませて、ブーブー言う百合。

 

 「なんでそんなに、俺とよりを戻そうとしてるんだよ」


 「・・・だから、言ったじゃない。茂と別れて、寂しいと思ったって」


 「その割には、坂守に言い寄ろうとしていたじゃないか」


 「だって、あんなにも高スペックな男が近くにいたら仕方ないじゃない。あーあー。奥さんと別れてくれないかなぁ」


 ・・・こいつ、俺に言い寄りつつ、言うセリフか?


 「いいじゃない。茂、今無職でしょ。無職が私みたいな可愛い子と付き合える可能性なんて、今後もうないかもしれないよ」

 

 聞けば聞くほど、俺の事を完全に見下している。

 もう、ここでほったらかしにして帰りたい。が、こんな夜道でもし、事件巻き込まれたりしたら、大変だ。

 一番に俺が疑いの目をかけられてしまう。

 

 「茂こそ、私の何がいけないって言うの?」


 それを聞くのか。

 性格、金遣い荒い、嘘つき・・・。あげるとキリがないぞ。


 「色々だな」


 「色々って何よ!」


 そんな感じな、会話しながら、駅に着いた。


 「そういえば、なんで居酒屋に俺がいるの知っていたんだ?」


 偶然、居酒屋来た。という感じではなかった。


 「茂と私がよく行った、居酒屋だったから、もしかしたらと、思って」


 「今、実家暮らし?」


 「・・・うん」


 マジか。

 

 百合の実家には、中には入ったことはないが、百合を迎えに一度だけ行ったことがある。

 ここからだと、県を二つもまたいで、電車を利用しても片道一時間~二時間を要する。そこまでして、今日、百合はここに来たのか。


 「電車あるのか?」


 流石に電車が無かったら、駅のホームで始発まで待てとは、言えない。


 「心配してくれて、ありがとう。大丈夫。まだ、電車あるから」


 また、会いに来ると言い残して、百合は駅のホームへと向かった。


 最後のあの感じ。


 付き合い初めだった頃の、優しかった百合と同じ感じを俺は感じだ。

 元々、あんなにキツイ性格でもなく、金遣いだって、必死に貯金したりするタイプの人間だった百合が、あそこまでひどく変わった理由を俺は知らない。

 俺が、口に出した時には別れを切り出されてしまったからだ。



 駅のホームで。


 久しぶりに会った、茂は私の事を嫌いになっていた。

 当然であろう。

 茂には、あんなにもひどい別れ方をしたのだから。


 「ふっふっふ。っふ・・」


 ニヤニヤしながら、満足げに笑う私。


 今、このホームに他にも人が居れば、間違いなく不審者として、通報されてしまうだろう。

 

 「・・・あの、私を睨みつける眼・・可愛かったなぁ・・・」 


 今日こっそりとスマホで撮った写真を、まるで、舐めまわす様に見て、うっとりとする。


 あーあー。

 もっと、もっと、見てみたい。

 茂が、怒ったり、困ったり、した時の表情を。

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