第9話

 冷静になって、こんな美女と同居出来るなど、嬉しすぎるのではないかと、一瞬だけ、思った。が、俺とは釣り合わないし、橋本さんにはもう一つ問題がある。

 それは・・・。


 「先輩の背中って、逞しいですね」


 「は、橋本さん!?」


 そう言って、俺の背中を流す為にと言い、橋本さんがお風呂に入って来た。

 どうして、こうなるのだ。


 「橋本さん。追加の約束覚えてません?」


 「覚えてますよ。だから、ちゃんとタオルを巻いて入ってます。最近の全年齢対象のものでは、胸にモザイク無しだってざらにあります。それと比べると、私は完璧に約束を守ってます」


 R18と言ったのが、まずかった。

 この状態でドキドキしない男はいないだろう。

 

 「あっ。タオル取れちゃった」


 はぁ?!

 何してるんだ?

 

 今、俺の後ろで橋本さんが裸・・・。

 

 ピーンポーン。


 呼び出しベルが鳴った。

 時刻は現在、19時半を過ぎているはず。

 一体、こんな時間に誰が?


 「梨沙!いるんだろ!!!!」


 お風呂場まで届く声で叫ぶ、男性の声。

 この声には聞き覚えがあった。

 俺がいたブラック企業を倒産まで、追い詰めた、橋本さんとお付き合いするのにある、問題の一つ。


 「もう、安心しろ。お父さんが迎えに来たぞ!!!」


 橋本さんのお父さんである。




 少し、時は巻き戻し、橋本さん実家にて


  私—橋本はしもと 忠邦ただくにはいつもの様に、梨沙の部屋に仕掛けた盗聴器を聞いていた。

 

 おかしい。

 

 いつも、この時間には帰ってくるはずなのに。

 まだ、娘は帰って来ない。


 私は急いで、娘の携帯に仕込んだゴーストアプリのGPSで娘の居場所を探った。

 もし、友達の家にいるのなら、何も問題なかった。が、娘がいた場所は。

 

 なんで、隣の部屋の住民の所に居るのだ?


 娘がに載っていない、家に居るではないか。

 電話をかけよと思ったが、何故か、娘は私を毛嫌いして、ブロックしている。

 全く、可愛い反抗期だ。ってそうじゃない。

 

 もしかして、誘拐されたんじゃないか・・・。

 今頃、数人の男に・・・。

 

 少し、不安がよぎれば、更に不安が増えていく。

 

 今すぐ娘を助けに行かなくてば。


 『明日の予定は全てキャンセルで』


 『ちょっと、先生!!何バカな事を―』


 秘書の松田に、連絡して明日を休みにした。

 ここから、娘の家に向かうとなると、半日以上の時間を消費するから仕方がない。

 

 待っていてくれ。

 今、パパが助けに行くからね。

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