第142話 許嫁と前夜祭

 その後、グランドの簡易ステージで行われた漫才や、体育館で行われていたバンド演奏等を見て過ごすと時間はあっという間に過ぎて、お互い自分達の出し物へ向かう時間になってしまった。


 クラスの出し物へ戻ると売り上げは意外にもあるみたいで、こういう系がイカに強いのか実感する。タコだけど………。


 だが、今日の俺の担当時間は昼過ぎで、客足もほとんどなく、暇な時間をクラスメイトと過ごすことになった。


 ほとんど喋ったことのないクラスメイトだったので、ボーッとしていると目の前の女子達の会話が聞こえて来る。


「今、演技してる人の衣装姿めっちゃ綺麗らしいよ。特に最後のは花嫁衣装みたいだって」

「うそー。まじ? 見に行かない?」

「うん。行こう行こう」


 そんな会話を聞いて俺は体育館の方を見て、シオリは上手いことやっているのかな、なんて思いながら長く感じる時間を過ごしたのであった。




 そして、文化祭一日目が終了した。


 本日はこれにてお疲れ様で明日の本番頑張りましょう。といことで、俺達は体育館へ集まった。

 今からここで行われるのは前夜祭みたいなもので、文化祭が始まっているのに前夜祭ってどうなん? と思うが、あくまでも明日が本番というスタンスらしい。

 参加は自由で、今から行われるのは文化部の出し物だ。


 映画研究部、軽音部、吹奏楽部、演劇部、ダンス部が出場するらしい。


 参加は自由で、別に途中で帰っても良いのだが、折角のお祭りなので俺達は参加することにした。映画研究部の出来も見てみたいしね。

 そんな俺と同じような意見が多いのか、体育館には沢山の人で溢れている。


「私の神編集が世間の目に晒される」

「自分で言うなよ……」


 早速始まった前夜祭の第一プログラムは映画研究部からで、体育館のステージよりプロジェクタースクリーンが下りてきて上映が始まる。


 ――まぁ……。うん……。クオリティーはそこまでだけど、前夜祭一発目としたら良いんじゃない? 前菜みたいなものさ。いきなりメインを食うより、一旦軽めの食事で胃を慣らす感じだよ。これを踏み台に前夜祭が盛り上がるんだよ。


「そういえば……」


 映画研究部の内容は熟知しているので今更見ても感が否めなかった為、シオリへ話題を振った。


「両親は呼ぶのか?」


 俺の問いにシオリはこちらを向いて間をあけた後にコクリと頷いた。


「誘ってはないけど……。机の上に置いてたら、行っても良い? って聞かれたから」

「良いよって?」


 聞くとまた頷いて答える。


「別に……拒む理由はなかった。それだけ」

「そうか」


 俺は無意味に頷いたあとシオリに伝えた。


「二人には言ったのか? シオリが劇でヒロインしてること」


 それに対しては首を横に振る。


「言う必要性がない。見たかったから勝手にくるだろうし」


 まぁ……確かに小学生でもないんだから、自分の劇を見て欲しいなんて欲求はないだろうな。


「コジローは呼んだの?」

「ああ、呼んだよ」


 呼ぶ気はなかったが喜んでたな。それはそれで呼んでよかったなと思えた。


「じゃあきっと、私達の事なんてほったらかしで遊び回るんだろうね」


 シオリの皮肉を言うような台詞。本当は両親に自分の事を見て欲しいという願望があるのか、それともただの嫌味か……。

 真意は分からないが家族関係の事を深くは聞かないでおこう。


「それじゃあ明日も俺達は悔いなく遊び回ろうぜ」


 笑って言ってやるとシオリが拳を作り言い放つ。


「暴れ足りない」

「今日存分に暴れていた気がするけど?」

「これじゃハジケリスト失格」

「ハジケリストって何?」

「明日タタミかけるよ! コジロー!」


 そう言って拳を俺に突きつけてくるので、拳を合わせて「ウェーイ」と明日も楽しむ事を誓った。


 

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