第83話 慈愛都雅の天使様と共に

 俺と四条は学校を出て駅前までやって来た。


 平日の昼過ぎ。


 見渡すと忙しそうなスーツ姿の男性。楽しそうに歩いている女子大生風の人。子供連れの母親等、やはり平日といえど駅前の繁華街なので人が結構いる。

 その中でも、学校が終わった時間帯なので様々な学生服を来た学生達が多く見られる。

 そんな駅前の繁華街を四条と歩く。


「なんか買い物か?」

「ううん。違うよー」


 なんとなく聞いた質問はどうやら間違いらしい。なので次の質問を投げてみる。


「なら、新しい店が出来たから試食にでも来たとか?」

「違いまーす」


 なんだか、クイズみたいな流れになったので、こうなったら正解したい。


「なんかのイベント!?」

「ぶぶー!」


 俺は答えを全てハズし、じゃあなんだ? と疑問に思いながら歩いていると駅前にある大きな駐輪場へやってくる。


 その中で『BC3』と書かれたエリアにやってくると、ズラリとバイクが並んでいた。


 見る限り、ピンクナンバーの原付タイプのバイクやフルカウルのバイク等のバイクが駐車してあり、恐らく51CC以上専用のバイク置き場なのだろう。


「――って……四条? お前今日バイクで来たの?」

「そだよー」


 四条は愛車のマジェスティのシートを開けながら軽く答えてくる。


「ふふ。バイトの交通費でここ無料で借りれるんだ。お得でしょ」

「お、おおん。確かにお得だけど……。バイク通学って良いの? 校則にはそういう事、特に書いてなかったと思うけど」

「んー。多分停学?」

「ダメじゃん」


 四条の答えについ笑うと四条を指を頬に持っていき言った。


「うーん。でも、一回帰った事にしとけば問題ないよ。きっと。だってあたしはちゃんと中免持ってるし」

「見た目によらず四条ってロックだよな」

「ギャップ萌え的な」

「的な」

「あはは。惚れるなよー」


 そう言いながらシートから二つヘルメットを取り出し、一つを俺に渡してくる。


「乗れと?」

「あ、やっとせいかーい!」


 ここでようやく正解を引き当てる事が出来たみたいだ。

 

「タンデムは免許取得から一年以上経たないと無理じゃなかったっけ?」

「お。知ってるんだね」


 感心したような声を出しながら四条はヘルメットを被る。


「まぁ、ネットで軽く見た程度の知識だけど」

「ふふ。大丈夫。もう一年以上経ってるよー」


 言いながら四条は可愛い財布から免許証を取り出し見してくれる。


「確かに」


 四条の普通自動二輪取得年月日から一年以上が経過しているのを確認した。


 いや、それ以上に、免許の写真って多少ブスになると聞いた事があるが、こいつ免許の写真も可愛いってどういう事? 可愛いの次元が違うの?


「どう? 安心した?」

「まぁ」


 俺の答えに軽く微笑んで四条は免許証を財布の中にしまい、ハンドルの下にある収納スペースへ入れた。

 鞄をシートの中に入れ「一色のも入れるよ」と言ってくれたので俺の分の鞄も中に入れる。


 ビッグスクーターって収納スペース広いよな。


 鞄をしまうと彼女はマジェスティに跨り、コロコロと後ろにバックする。


 バイクの頭を出口の方へ向けると「じゃあ乗って」と自分の後ろに乗れと言ってくる。


「ごめん。乗り方わからん」

「普通に自転車乗る感じで」

「自転車?」


 よく分からんがともかく後ろに頑張って跨って乗ってみる。

 自転車に乗る感じとは全く違い、大きく足を広げたので股関節がちょっと痛い。

 でも、なんとか乗れた。


「そこに足おいてね」

「ここね」


 俺の足元にある、後ろの人用の足置きみたいなところに足をおくと四条はエンジンをかける。


 バイクが振動し、俺の気分も少し高揚する。


「どこ掴めば良いんだ?」

「あたしの身体に抱きつく?」

「――なっ!? そ、それは……」


 焦った声が出ると四条は「あはは」と笑い教えてくれる。


「恥ずかしいならグラブバー――お尻の辺りにある棒を掴むと良いよ」

「そ、そうします」


 流石に抱きつくのはまずいと思い、俺はお尻にある四条が言っていたグラブバーとかいうバイクに付いている棒を握る。


「じゃあ、行くよー」


 そう言って四条はアクセルを回して、マジェスティが動き出した。




 ゴオオオオオオと強い風の音がする。


 バイクに乗るのは初めてで、正直最初は怖かったけど数分乗っていると慣れて来た。今は初夏の風を感じる事が出来て楽しい。


 四条の運転は優しく、ちゃんと法定速度を守り、自動車の後ろを車間を取り運転している。

 ちらほらと物凄いスピードで車と車の間を無理に突っ走るライダーがいるが、怖くはないのだろうか……。


 運転中は風の音で会話はほとんどかき消されてしまうので、信号待ちになった時に四条へ話かける。


「ところで、どこへ向かっているんだ?」

「行ってのお楽しみって事で」

「ふぅん。どこだろう……」

「あたしのベストプレイス。きっと一色君も気にいるよ」

「気になるなぁ。どうい――」


 バイクが動き出し、俺の言葉は風にかき消されてしまった。


 もう少し体勢を前にしたり、耳元に持っていったりすればスムーズな会話ができそうだが、今はそこまでして会話が重要じゃないので、この貴重な体験を楽しむ事にしよう。




 景色は移り変わり、先程まで街並みが続いていたはずなのに気がつけば山道を走っていた。


 グネグネとまでは言わないが、大きな右カーブや、左カーブが現れてゆっくりと登っていく。


 途中に中学校があったりして、この学校の子達は山を登って通学しているのかな、とか、どこまでが校区なんだろう、なんて考えながらマジェスティさんに山登りを任せる。


 しかし、どこへ向かっているんだろう。山を越えた先の街にでも行くのか? 宛のない旅的な?


 行き先不明のツーリングだったが目の前に見えた『ドライブウェイ』というゲートの看板を見て察した。


「あい、千円」


 有料の有人料金所で少し愛想の悪いおじいさんがお金を入れるトレーをこちら側に伸ばしてくる。

 

 四条はハンドル下の収納スペースから財布を取り出して千円をトレーに置くと、おじいさんがパンフレットと領収書をくれた。それを彼女は財布と共に収納スペースへしまいバイクを再発進させた。

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