第47話 二月といえば
新学期が始まり一月が過ぎた。
早くも二月を迎えた高校生活。
二月は一月の日数が少ないし、三月からは春休みも始まるので、このクラス、自分の人生においての高校一年生という職業がちゃくちゃくと終わりへ向けて歩き出している。
同じ事を考えてるのか、それともいないのか……。
本日もいつも通りに通学をして、いつも通りに教室に入ると、いつも通りのクラスの雰囲気。何も代わり映えしない教室内――。
――いや……。変わった事が少しだけある。
「あ、一色君。おはよー」
「おはー」
「すぐにどくねー」
四条は俺の席に座っていたのをすぐに退いて、自分の席に座る。
ここ最近、シオリと四条の仲が良い。
それは、映画研究部の手伝いをしている事もあると思われるが――。
「コジロー……邪魔。折角、四条さんと真剣な話してたのに」
「ここは俺の席だ。女子会なら他でやりな」
「じゃ、家に呼ぶ」
「あ、それだけは勘弁してください。まじで」
「冗談」
真剣な話とは、彼女の恋のお話だろう。
お相手は――。
「――ん? おはよう。小次郎」
「おはー」
この俺の斜め後ろに座るイケメンイケボ野郎の冬馬だ。
こいつは気がついているのか、いないのか……。こんなに可愛い女の子に好かれているのに、相変わらず澄ました顔してやがる。
「何だ?」
「んにゃー。別に……」
「最近小次郎から視線を感じるんだが……。もしかして俺にホの字なのか? 純恋どう思う?」
冬馬が四条に話を振ると、苦笑いで「どうだろうねー」とかわされる様に言われていた。
「お前は許嫁というものがありながら、俺までも狙うのか――。底知れない奴だ」
「誰が己なぞ狙うか!」
「ぬ? ――俺は男の中でも優良物件だが?」
「見てくれはな。中身はただの馬鹿じゃないか」
「な、何だと!? 失礼な!」
「――てか、そろそろやめないと、他の奴らが、まじで俺達を付き合ってると勘違いするぞ?」
「それはいけない。いけないな」
そんな俺達を四条は楽しそうに見守り、後ろからシオリがツンツンと背中をつついてくる。
「もちろん、コジローが受けだよね?」
「そういう話じゃありません!」
♢
もう慣れた高校生活。
リズムができるとあっという間に時が流れて、本日も残す所一限で終了である。
五限終わり――体育館側の人気のない自動販売機まで足を運ぶ。
中庭の方は、この時間人気なので人が多いのだが、流石は不人気自動販売機ポイント。この時間だから誰もいない。
ここでなら、買った飲み物を飲みながらゆっくりできるというもの。
俺はベンチに座りコーラをちびちびと飲みながら、ブレザーのポケットから四つ折りにしたプリントを取り出して広げる。
それは、五限に配られた、二年の選択授業の希望調査の紙であった。
噂では、この選択授業でクラスが決まるとかなんとか聞いた事がある。なので、仲の良い友達同士、学内カップル達は自分のやりたい事は二の次で合わせるみたいだな。
「うーん……。どうしようか……」
俺は冬馬と合わせる気はさらさらない。それに、冬馬もこちらに合わせる気はないだろう。
性格は似ていないけど、こういった、自分のやりたい事に関しては自我を通すタイプである。
だからもし、噂が本当ならば、来年は冬馬とは違うクラスになりそうだな。
「やっぱ……音楽が魅力的だよな……」
そんな事を呟くと「一色君は音楽?」と聞こえてきたので頭を上げる。
「四条じゃん」
「やっほ。やっぱりこっちの自販機だったね」
「ん? 俺を探してた?」
「まぁ探してたって程じゃないけど。タイミング良く教室出て行ったから、見つけたら聞きたい事があるって程度かな」
なるほど、教室では喋りにくい事――。
「冬馬のこれ?」
選択授業希望調査の紙をひらひらとさせると「あー」と声を出し、笑いながら否定する。
「確かに、冬馬君が何にするか気にはなるけど……。あたしは音楽って決めてるから。一緒ならラッキー程度かな」
「へぇ。意外だな。部活も合わせるくらいだし、選択授業も合わせると思ったけど」
「うーん。あたし的には音楽がかなり魅力的だね。他は正直興味ないかな。――一色君も同じなら、来年度も同じクラスの可能性あるね」
そう言ってこちらにピースサインを送ってくるので、こちらもピースサインで「そんときはよろー」と返しておく。
「――って、これじゃ無かったら何?」
聞くと四条は少し恥ずかしそうにした。
「えーっとですね。今月は何月でしょう?」
いきなりのクイズに俺は疑問を抱きながらも「二月」と答える。
「ピンポーン。当たりです」
お手製の正解音の後に続けて行ってくる。
「二月といえば?」
「二月? ――うーん……」
頭を過ったのは今朝考えていた、もうすぐ一年が終わる事――。
「学年末テスト?」
そう答えると、四条はジト目でこちらを見てくる。
「華の男子高校生がテストの事考えてどうするの?」
「俺は華の男子高校生というカテゴリに入るのか……。光栄だな」
「それは置いといて」
「おいい! そこは入れておけよ!」
そんな俺を無視して四条は続ける。
「二月といえば『バレンタイン』でしょ?」
そう言われて俺は心の底から「あぁぁー」と心底嘆きの声が出てしまう。
「あれ……嫌い?」
「――ふ……」
何となく髪の毛をかき上げて、不敵な笑みを浮かべておく。
「一色君はどんなチョコが好きかなって」
俺の反応を無視して聞いてくる四条に「俺?」と聞き直す。
「そうそう」
「冬馬じゃなくて?」
聞くと「あー……」と何か考え込んだ後に答える。
「と、冬馬君にあげる時の参考になったらと思って」
「そうか……。チョコレートな……」
冬の空を見上げる。
何だか晴れ間は見えるけど、雲が多い空模様である。
「もらえれば何でも良いかな」
「美味しくなくても?」
「美味しくなくてもチョコレートをもらうのに意味があるんだ! それが男の浪漫なんだ!」
そう熱弁すると、四条は「まさか……」と察した様なので「それ以上言うな」と言って、立ち上がる。
「ま、男がチョコレート貰って嬉しくない何て事は絶対ないよ。渡した奴の反応が良くても、微妙でも、悪くても――どんな反応でも、結果的には全て『嬉しい』――これに尽きる。――だから、安心してチョコを渡しな」
「結果的には全て嬉しいね……。そっか」
どこか嬉しそうに言う四条も立ち上がった
「今年は期待しても良いかもね」
「何だ? 四条がくれるのか?」
「さてね。ふふ……」
四条は何か意味深な笑みを浮かべるだけであった。
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