第27話 許嫁はたまたま見つける

 寝惚けて放った言葉かも知れないが、シオリの言う通り、今から学校に行ってもあまり意味はないと思う。

 なので、今日は自主休講というご都合主義に甘える事にする。


 折角、ご都合主義に甘えるならとことん甘えようという事でシオリと駅前にランチに行こうという話になった。


 シオリは寝ぼけたままだったので何故か学校の制服に着替えてしまった。

 もう着替えてしまったので、再度着替えるのも面倒という訳で、俺も彼女に合わせて制服で行く事にした。


 制服の良い所はコーディネートに困らない所だな。私服だと色々と悩む時があるが、制服ならそれはない。その点も高校生の利点だと言えよう。




「どうしようか?」


 休日は沢山の人で賑わう駅前の繁華街も平日の昼間という事で人の多さはまばらであった。


 繁華街に到着する頃には昼食を取るのに丁度良い時間になる。

 油断したら俺の腹の虫も鳴り響きかねない位にお腹が空いた。


「コジローは食べたい物ある?」

「うーん……」


 女の子とご飯を食べに行くなんて――この前、シオリとハンバーガーを食べたのが初めてだ。あれは食事というよりも間食に近い感覚だろう。


 なので、女の子と食事なんて何処の店をチョイスしたら良いのか分からない……。


 そういえば慈愛都雅の天使様が「パンケーキ食べたい。それか牛」とか言ってたな……。


 ――把握。


 つまり、今時JKはパンケーキか焼肉を食すという事ですね天使様。


 しかし、昼から焼肉なんて、どこのリッチ高校生なんだよ。だが、昼飯にパンケーキもどうなんだ? と思うが、ここは慈愛都雅の天使様を信じようと思い、パンケーキの店をキョロキョロと探す。


「コジロー!」


 考え込んでいると、ふと、珍しく高揚した声を出すシオリにビクッとなる。


「どうしたよ?」

「ここ」


 彼女が立ち止まり指差した方向には――。


「――ラーメン?」


 塩ラーメンの店があった。


「ラーメン食いたいの?」


 聞くと頷いてくる。


「ラーメン屋のラーメンを食べた事がない」

「え? まじで」


 結構な衝撃発言に俺は目を丸めてしまう。


「まじ。一人でラーメン屋に行ったら私のキャラがブレるから今まで封じていた」

「キャラがブレるってなんだよ……」

「時は満ちた。今、封印を解き放つ時」

「それって単純に一人で入る勇気が無かっただけじゃない?」


 俺の指摘に「うっ!」と自然と声を漏らす天使様。


「つ、つべこべ言わずに入る」


 図星か……。


 シオリは本当に初めて行くのかと疑う程、まるで常連の客の様にのれんを潜ると「らっしゃい!」と覇気のある声が響き渡る。


「二名様で?」


 接客に来たのは頭にタオルを巻いたいかにもラーメン屋の店員さん。

 それに対してシオリは「おお……」と驚きの声を上げて店員を無視するので俺が指でピースサインを作り「二人です」と答える。


「ご新規二名様ご来店です!!」

「いらっしゃいませ!! こんにちはー!!」


 店員さんの足踏み揃った声出しの中、テーブル席に案内される。


「いらっしゃいませ」


 店員さんが愛想よく言いながらお冷を二つテーブルに並べてくれる。


「ご注文はお決まりで?」


 俺は何回か来た事あるお店なので「天然塩」と注文する。

 ここの塩ラーメンはゆずが入っており、香りもさる事ながら口いっぱいに広がる爽やかな味わいが特徴である。


「あ、私もそれで」


 俺の注文に便乗したシオリが店員に伝えると「かしこまりました」と席から離れて「てんしおニ丁!」と元気良く叫ぶと「あいよー!」と店員さん達が返事をする。


 美味しいラーメン屋さんは店員さんが元気だよな。


 しかし……まさか女の子とラーメン屋に来るとは夢にも思わなかった。しかもこんな天使の様な美少女と。


 何だか想像が付かないな。ラーメンをすするシオリの姿は――。


「な、なに?」


 いつもみたいに氷の息を吐く様な声――ではなく、少しだけ動揺している様な……。焦っている様な……。そんな声に感じた。


「いや、別に」

「別にって事ないはず。顔がにやけてた」

「にやけてねぇわ」

「そう……。仕方ないね。コジローはニヤけ顔の変態だから」


 酷い言われようである。







「ありがとうございます! またお越し下さいませ!」


 会計が終わり店を出ようとすると「まいどおおきに!」「ありがとうございます!」「おおきに! またお待ちしております!」と元気な声に見送られて店を出た。


「どうでしたか? 初ラーメン」


 店を出て聞くとシオリは無表情で「悪くない」と上から目線の答えを出してくる。


「その割には汁まで全部飲んでたけど……」

「ふっ。上には上がいる。ここで満点を上げると今後の採点に影響が出る」

「初めて食べる癖に何を語っとるんだが……」


 やれやれ、と呟きながらスマホで時間を確認しようとするとメッセージが送られて来ている事に気がつく。


 差出人は冬馬だ。


『冷徹無双の天使様と愛の逃避行か? 羨ましいね』


 その文章を読んで「誰が逃避行じゃい」とツッコミを入れてしまう。


「逃避行……?」

「ん? あ、いや、今のは――」


 わざわざ説明するのも馬鹿らしいが、シオリが疑問に思っている様な声を出すので説明しようとすると、彼女の視線はこちらでは無く明後日の方向を向いていた。


「シオリ?」

「あれって……愛の逃避行?」


 シオリが指差した方向には――。


「四条と――五十棲先輩?」


 二人は仲良さそうに複合施設の中に入って行った。


「昼休みに抜け出してこんな所で堂々とサボりってか?」

「コジロー……。それブーメラン……」


 珍しくシオリにツッコまれてしまい「あ、あはは」と苦笑いを浮かべた後にふと気が付く。


「――え? てか、二人って付き合ってるの?」

「意外な組み合わせ」

「思った。えー……まじか……そうなっちゃう」

「これは調査が必要」

「――だな」


 俺達はお互い首を一回縦に振り、急ぎ足で複合施設の中へと侵入して行った。

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