第28話 天使が天使に騙される

 駅前の複合施設と言ってもここは中核都市である。都会の駅前にある複合施設と違ってそこまで大きくは無い。なので、二人を探すのはそこまで難しい事では無かった。


 複合施設に入るとエスカレーターで上の階に上がっている二人を発見。二人はそのまま二階で降りたのを確認した。


 俺達も素早く二階に上がり、そのフロアをウロウロとしていると二人は雑貨屋の中に入って行くのが目に入った。


 俺達はバレない様に、忍者の如く、抜き足、差し足、忍び足で出来るだけ距離を詰める。


 店の中にある商品棚の物陰に隠れて二人の様子を伺う。


「あ、これ可愛い」

「うぬ……。良いかもな」


 有名な電気ネズミがサンタの帽子を被っているぬいぐるみを手にする慈愛都雅の天使。それを見て頷くガタイMAX。


 あかん。まだ現実味が湧かない。まさか二人が――。


 俺が言うのも失礼だし、そんな権利ないし、申し訳ないんだけど――全然お似合いのカップルじゃない。


 やはり慈愛都雅の天使様は冬馬みたいな美男子系がお似合いだし、ガタイMAX先輩は夏希先輩みたいな姉御肌っぽい人がお似合いだと思う。


 だが、目の前の光景がリアル。これが答え。それが恋愛という物だ。第三者が易々と意見を述べるのは見当違いも甚だしいというもの。


 しかしだ。慈愛都雅の天使様は学園のアイドル的存在である。

 そんなアイドル的存在があんな筋肉さんと付き合っているとなると――ガタイMAX先輩が闇討ちされてしまうだろう。


 ――ん? 


 考えていると、この前、映画研究部の部室を訪れた時の光景がフラッシュバックする。


 そういえば……あれも一人の変態だ。学内で裸で筋トレする阿呆だから、学校の平和の為――いや、世の中の平和の為には闇討ちされた方がむしろ良いのかも知れないな。


「クリスマス……」


 ボソリと呟いたシオリの声に「ん?」と反応すると、彼女は首を横に振る。


「普通にデートっぽい」

「だな」


 圧倒的デート感。


 慈愛都雅の天使様は筋肉が好きだったのか……。慈愛都雅の天使様好きはみんな筋トレすれば良いのかな?


 そんなくだらない事を考えていると「――あ」とシオリが声を漏らした。


「コジロー。まずい、こっちに来る」


 見てみると、二人がこちら側に歩いて来ている。


「一旦離脱だ!」

「り」




 彼等から距離を取り、エスカレーター付近にある長椅子に腰を下ろす。


「あぶなかったな」

「危機一髪。もう少しで私達の存在がバレる所だった……」


 ふぃ、と安堵の息を漏らすと「もうバレてるよ」と柔らかい声が聞こえてきてドキッとなる。


 ふと、前を向くとそこには慈愛都雅の天使様が慈愛に満ちたかの様な顔で立っていた。


「よじょ――!?」

「なぜバレた……。私達の尾行は完璧だったはず」


 シオリの言葉に四条は手をブンブン振って「いやいや、ガバガバだったけど?」と言われてしまう。


「二人共こんな所で何してるの?」


 しかしまぁ、バレたのなら仕方がない。俺はニタリと笑って少しからかう様に言ってやる。


「何してるってのはこっちの台詞だぜ。まさか四条が五十棲先輩と付き合ってるなんてな」

「意外。それはまるでモータープールが関西でしか使われていない言葉位に意外」

「分かりにくい例えどうも」


 そんな俺達の会話を横目に四条は「え?」と声を上げる。


「あたしが五十棲さんと付き合ってる?」

「だってそうだろ? 昼休みに抜け出して先輩と買い物なんて付き合ってる男女しかやらない行為だぜ」


 俺は、身体は子供、頭脳は大人な名探偵風に言ってやる言ってやると四条は余裕の笑い声を出す。


「あはは! 確かに、そんな状況なら勘違いしても仕方ないよね」


 でも、と付け加えて答えてくる。


「五十棲さんとは今度の映画研究部のクリスマス会の準備の下見に来ただけだよ? もうお互い用事があるから別れたけど」

「クリスマス会……だと?」


 なんだ? そのリア充がただリア充するだけのイベントは――ぐっ……。頭が……。


「頭痛が痛い」

「コジロー。それは重言」

「ぐぅ正論どうも」


 シオリに礼を言った後に俺も四条に正論を突きつけてやる。


「だが、昼休みに抜け出しているじゃあないかっ! これは言い逃れ出来まい!」


 ぐっふっふっ! と悪役がやりそうな笑いを浮かべてやる。


「今日から終業式まで授業は昼までだよ?」

「――あ……」


 そうだった……。シオリの誕生日に全集中していたのですっかり忘れていた。


 四条は俺達二人を見比べて「――うーん……」と指を顎に持って行くと聞いてくる。


「――ていうかね? 二人こそ付き合ってるの?」


「なぬ?」

「だって――学校サボってこんな所にいるし。それって一色君の理論からすると『付き合ってる』人の行為なんだよね?」


 何も言い返せない正論を突きつけられてシオリが「全部ブーメランで返って来たね」と他人事の様にサラッと言って来やがる。


「いや、俺達は――」

「あ、大丈夫だよ。あたし口は固いから。ほら、吐いちゃって。セーイ」


 到底口が固い人が言いそうにない信頼性が皆無な台詞を平気で吐いてくる慈愛都雅の天使様。

 しかし、そんな言葉に騙されるなんて小学生以下の奴だけだぜ。

 この一色 小次郎は絶対に騙されない。


「許嫁」


 ――え?


 俺と四条は言葉を放ったシオリの方を見る。


「私とコジローは許嫁」


 あー……。ここにいたわ……。騙される奴が。


 まさか、冷徹無双の天使様が慈愛都雅の天使様に騙されるなんて……傑作だな。

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