第19話 許嫁は気になる
「あははー。ごめんねー。見苦しい所を見せちゃって」
映画研究部の部室内に通してもらい、俺とシオリは着席させてもらう。ガタイMAXさんと夏希先輩が俺達の前に座る。
夏希先輩は先程の総長モードから優しい先輩モードへと切り替わっていた。
「うぬ」
ガタイMAXさんはピチピチのワイシャツを着て腕組みをしている。
季節的にその格好は寒いと思うのだが、筋肉で守られているのだろうか……。
感心していると夏希先輩がガタイMAX先輩後頭部を押さえつけて机にキスさせた。
ガン! っと、まぁまぁ大きな音が部室内に響いた。
「うひょ」
その声はおかしいだろ……。いや、この人自身がおかしいから良いのか。
「謝る」
「しゅびゅまじぇんでじだ」
「よし」
まるで犬のしつけを見せられている様だ。
夏希先輩の掛け声でガタイMAXさんは起き上がる。
「――っと、自己紹介がまだだったね。私は二年の
ご丁寧に自己紹介をしてくれる先輩。
「ど、ども。一年の一色小次郎です。こっちは――」
「七瀬川汐梨」
こちらも自己紹介を返すと「あ……」と夏希先輩が声を漏らす。
「冷徹無双の天使ってキミかぁ。はぁー。なるほどね。どうりでそんだけ綺麗な訳だ」
夏希先輩はシオリの顔をまじまじと見て頷く。
「ぬ? 冷徹無双の天使というのは確か――男共をバッタバッタとなぎ倒してこの学校の頂点に立つと言われる男の中の漢では?」
五十棲先輩の言葉に人ならざる者を見る目を向ける夏希先輩。
そのあと、優しい目を俺達に向けてくれた。
「ごめんね。馬鹿は放っておいて――」
「――あはは」
「二人は入部希望で良いんだよね?」
夏希先輩は目を輝かせて聞いてくる。
そりゃいきなり部室を尋ねたらそう思うのが普通であり、夏希先輩は何も悪くはない。
「あ、いや……。すみません。えと、四条に用がありまして」
「純恋に?」
そう聞いて夏希先輩は肩を落とした。
「――なんだ……。入部希望者じゃないのか……」
「すみません」
謝ると手をパタパタと振って笑いかけてくれる。
「全然、全然。早とちりした私が悪いから気にしないで」
「ほんとそれな」
五十棲先輩が言うと、人を殺める事が出来るのではないだろうかと思える程の目で睨みつけた。
「あん!? 筋肉馬鹿は黙っとけよ。闇に葬るぞ?」
「夏希。後輩達の前だ。ご褒美は後にしろ」
やっぱりこの人ドMだ……。
「――あ、あはは。そ、それで純恋に用事だよね。――って、確か……撮影に行ったんだっけ?」
問いかける様に夏希先輩が言うと五十棲先輩が頷いて答える。
「来年の新入生用の学校案内の撮影だよ」
「へぇ。そんな事もしているんですね」
「学校側に頼まれてな。筋トレばかりしてたら怒られるから、こうやって学校側に貢献して機嫌を取らないとな」
一体ここは何部なのだろうか……。
「――っと、話が逸れたね。純恋は多分冬馬と中庭にいるんじゃないかな?」
「そうだな。今日はそこに行くと言っていたな」
二人の言葉を受けて俺は軽く頭を下げる。
「すみません。部活中に。ありがとうございます」
俺が言うとシオリも軽く頭を下げる。
「いや全然、全然。てか、こいつ関係ない事してたし」
「そんな事はない! 筋肉は大いに関係あるぞ」
「なんで?」
「ワイスピみたいな映画撮る時に」
ワイスピ――ワイルドスピン。アクションアドベンチャー洋画だ。俺も大好きな作品。
「あっそ」
面倒臭くなった夏希先輩は呆れた声を出した後に俺達を見る。
「あ、二人共。別に入部しなくても、また気軽においで。部員四人しかいないし、どうせ暇だからさ」
そう言って優しく微笑んでくれる夏希先輩と「うぬ」と一言頷く五十棲先輩。
「ありがとうございます。また是非遊びに行かせてもらいます」
そう言って去ろうとするとシオリが「すみません」と夏希先輩に声をかける。
「ん?」
「お聞きしたい事があります」
おお。シオリの敬語って何か新鮮だな。
「なになに?」
「六堂くんと四条さんは付き合ってますか?」
あ、五十棲先輩がインパクト強くて忘れてたけど、その事聞くって言ってたな。
シオリの質問に対して夏希先輩は首を捻る。
「どうだろ? そんな話は聞いた事ないけど」
言いながら夏希先輩は五十棲先輩を見る。
「そうだな。見た目はお似合いだが、聞いた事はない」
「だよな。んー。仲は良いと思うよ。でも、進展も無さそうだよな」
「だな」
そんな二人の言葉にシオリは「そうですか」と答えて立ち上がる。
「それなら何も気を使わずに行けます」
ああ。もし付き合ってたら、二人っきりの撮影という名のデートをぶち壊す事になるもんな。
それに続いて俺も立ち上がる。
「またね」
「うぬ」
夏希先輩が可愛く手を振ってくれて、五十棲先輩は何故か頷いて見送ってくれたので、頭を下げて「失礼します」と声をかけ部室を出た。
部室を出てシオリを見る。
意外にも気を使う人間なんだな。
「なに?」
彼女を見ていると問われるので「いや」と思った事をそのまま伝える。
「気遣いの出来る女だな……と」
そう言うと鼻で笑われてしまう。
「私レベルになると息をする様に気遣いが出来る」
褒めるとこれだよ。
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