第18話 許嫁と映画研究部へ

 やはりシオリは目立つな。


 スクールカースト上層部にいる訳ではない。部活動で有名な選手ではない。生徒会に属している訳でもない。


 それでも目立つのはやはり見目麗しい容姿だからだろう。


 見た目が可愛い子というのはこの学校に一杯いるし「おっ」となる子も見た事ある。


 しかしシオリは別格。彼女を初めて見た時は息を呑んだ。こんな女性が世の中にはいるのだと衝撃的であった。


 多分、今シオリに注目している生徒も同じ様な感情なのだろう。


 彼女と共に部活棟へ向かっていると、すれ違う生徒達が俺達を――正確にはシオリを見て息を呑んでいた。それは男子だけではなく、女子も同じ。


 芸能人が街を歩く感覚に近いのかな? 俺はマネージャー的な?


 シオリは恐らく慣れているのだろう。ヘッドホンをして、澄ました顔して歩いている。




 二階の渡り廊下に入るとシオリはヘッドホンを外してこちらに問いかけてくる。


「そういえば、二人の部活動って何?」

「あれ? 知らなかった?」

「さっきのコジローとの会話で六堂くんと四条さんが同じ部活というのは予想出来た。でも部活動の名前が出ていないから分からない」

「ああ。さっきのね……。映画研究部だよ」

「映画……。そう……」


 シオリは自分が予想していたのと違うと言いたげな声を出す。


「何部だと思った?」

「サッカー部。四条さんはマネージャー」

「あー。分かるわ」


 四条は部員に大人気のマネージャーって感じするもんな。


「てか冬馬は中学の時サッカー部だったんだよ」

「そう。それが何で映画研究部?」

「さぁ……。それは教えてくれなかったな」

「――恋?」


 シオリの言葉にパンっと手を叩く。


「だよな! やっぱりそう考えるのが自然だよな」

「四条さんは可愛いから六堂くんも惚れて当然」

「うんうん。やっぱなー。あいつ部活行く時めっちゃ機嫌良いもん。そうだよなー」

「もしかしたら既に付き合ってる可能性もある」

「うわ。冬馬の奴、俺に隠してコソコソしてんのか。ヤラシー奴」

「これは確認が必要」

「そうだな。他の部員の人に聞いても良いかも」


 他人の恋バナって楽しいよな。ちょっとうきうきな気分で映画研究部の部室へと向かった。







 部活棟の三階の一室。そこに映画研究部の部室があった。

 部室名が書かれた札に誰か書いたか知らないが綺麗な字で『映画研究部』と書かれているから間違いないだろう。

 俺も部室に顔を出すのは初めてだし、春の仮入部期間の時期にも来た事は無いのでどんな人がいるかは知らない。

 冬馬曰く「馬鹿」と言っていたが……。


 入り口の前のドアで立ち止まってしまう。


 会議中とか、今真剣な雰囲気とかだったらどうしようか、と思いながらも、ここに突っ立っていても時間の無駄だし、勇気を持ってノックをしようと決意して、ドアを三回ノックする。


 コンコンコン。


『うぃー――ふぃー――おー? どぞー?』


 ん? 何だろう。何か違和感のある返答がある。その違和感が何なのか分からないが返事がおかしい気がする。


 しかし、どぞー、と言っていたので開けて良いと言う意味だろう。


「失礼しまーす」とドアを開けると――。


「ん? なんだ? 入部希望者か?」

「――ぶっ!」


 俺は吹き出した。


 だってガタイMAXの男が裸でダンベル上げてるから。


「コジローの倍はある」

「ちょ! シオリさん!? 何と比べた!? てか、何で俺の知ってるの!?」

「確認済み」


 親指を突き立てて言ってくる。


「いつ!? いつ見られた!?」


 俺が焦りながらツッコミを入れているとガタイMAXさんが何の反応も示さない様な顔をして「何を焦っているんだ?」と聞いてくる。


「おかしいでしょ!?」


 つい、ツッコミを入れてしまうと彼は首を傾げて自分の身を見る。


「そうだな。今日はキレてないか――じゃあもうワンセット――!」


 言いながらダンベルで鍛え出した。


「そういう意味じゃねぇ!」

「ふんっ! ぬんっ! えっ!? なんだって!?」

「この人頭おかしいよ!」


 俺のツッコミの後にシオリがしみじみと「あそこも」と付け加える。


「お前は冷静だな。異性の素裸見て何も思わないの!?」

「何も」


 そうだわ。こいつも裸族に近い感覚だったの忘れてたわ。

 てか、人前で裸になれるとか羞恥心を持てよ!


「あれ? 入部希望者?」


 俺が頭を抱えていると女性の声が聞こえてきた。

 声の方を見てみると、ポニーテールの美女が立っていた。

 制服のリボンの色から先輩である。


「あ、いや、俺達は――」

「遠慮しないで中入って良いよ。ふふ。四人しかいないし入ってくれると嬉しいな」


 俺達の事はネクタイとリボンの色で後輩と理解しているだろうが、それでも笑顔で優しく親しみやすい声を出してくれる。

 多分優しい先輩なのだろう。


 そんな先輩が部室に入ろうとする。


「お! ――ふんっ! 夏希。――ふんっ!やっと来たか! ――ふんっ!」


 裸ダンベル男が先輩を『夏希』と呼びかける。


 夏希と呼ばれた先輩はその場で固まったが、すぐに親しみのある笑顔を見せるとその笑顔のままガタイMAXの男走って行き――そのまま格闘ゲームのキャラクターの様に飛び蹴りをかました。


「――うぉ――ぉ――ぉ――ぉ……」


 ガタイMAXは格闘ゲームでHPが無くなり倒れる時の様なエコーがかかった声を出しながら吹き飛んだ。


「てめっ! ごらっ! この野郎!! いつも言ってんだろうが! 筋トレは別に良いけど脱ぐなってよ! てか、おめぇは何ですぐ脱ぐんだ!? ああ!?」


 先程の優しい口調は何処へやら、先輩はまるで女総長の様な怖い声を出す。


「――夏希……聞いて――ぐふっ!」


 先輩はガタイMAXの顔を踏みつけ「聞かねーよ」とゴミを見る目で言ってのけた。

 ただ、ガタイMAXの顔は踏まれているのに気持ちよさそうだった。


「おいごら! おめぇのその汚ねーチ○コ見せられるこっちの身にもなってみろ?」

「じゃ、じゃあ――夏希が綺麗にな――ぐひょ!」

「言わせねーよ」

 

 ガシッガシッと踏みつける。その度にガタイMAXは喜びの笑みを浮かべている。


「そんな粗末なもん次見せてきたら、剥ぎ取るぞ!」


 そう言われて、俺は嫌な妄想をしてしまい寒気がやってくる。


「――あれで粗末ならコジローのはミジンコだね」

「うるせーよ!」

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