第17話 許嫁はお礼が言いたい
一週間頑張った事を労ってくれるかの様なチャイムが鳴り響く。
このチャイムを聞いて気分が高揚するのは明日が休みなので、今日の夜は思う存分夜更かし出来るという事と、明日の朝は好きなだけ寝れるからである。
「冬馬。今日は部活?」
新しい席になり、わざわざ立ち上がらなくても冬馬が近くにいるので問い合わせる事が出来るのは非常に楽である。
俺が聞くと眼鏡をカチッカチッとする。
「部活だ」
「ふぅん。――って事は四条もか」
隣の席のアイドル風の顔立ちの女の子に問いかけると、鞄を手に取り立ち上がる。
「そうだよ。――あ、一色君も入る? 冬馬君もいるよ」
昨日も先生に誘われたので俺はつい苦笑いが出てしまい「遠慮しとく」と否定すると、さして落胆の様子もなく「そっか」と呟かれる。
「純恋。行こうか」
冬馬が立ち上がり四条に声をかけると「あ、うん」と反応して四条も立ち上がる。
「それじゃ一色君。またね」
「がんばー」
二人に声をかけて、その背中を見つめる。
うぬ……。中々にお似合いな後ろ姿だ。――てか、二人共、美男美女だからお似合いなんだよな。
名前で呼び合い、同じ部活、そして一緒に部活動へ――。これ、ほぼ付き合ってるんじゃない?
そんな事を思いながら席を立とうとした所――。
「うおお……お……」
後ろへ引力がかかり、椅子が二本足のみで立ち、ウィリー状態になる。
何とか前の方に体重をかけて、元の体制に戻す。
危なかった。いきなりなに!?
そんな思いを乗せて後ろを振り向くと、俺の先程の行動を冷めた目で見ているかの様な表情をしているシオリ。
「お前引っ張ったよな?」
「引っ張った」
「お前がやったのに、何でそんな冷たい目で見てくる?」
「そんな目じゃない」
「じゃあなに?」
「いちいちオーバーリアクションうざい――という目」
「もっとあかんわ!」
ツッコミながら立ち上がり溜息を吐いて聞いてみる。
「それで? 何か用か?」
聞くとコクリと頷く。
「お礼言いたい」
「いやいや良い、良い。全然良いっての。気にすんな! じゃ!」
言い残して去ろうとすると、瞬時に手首を掴まれ、引っ張られてしまい、その勢いでペタンと席に座る。
「――うっは……。今、ジェットコースターの股間がヒュンってなる現象が起こったわ」
「コジローにじゃない。四条さんに」
「四条?」
聞くとまたコクリと頷いてくる。
「さっき助けてもらったから」
それは昼休みの件の事だろう。
「あれ? 俺には?」
自分を指差して聞いて見ると鼻で笑われる。
「四条さんはココを使って私を助けてくれた」
言いながら自分のこめかみ辺りをトントンして頭が良いと言わんばかりのジェスチャーをしてくる。
「コジローはシャシャリ出てきて殴られそうになっただけ」
「仰る通り過ぎて何も言い返せない」
流石は冷徹無双の天使様。お見事なお返しです。
「だから四条さんにお礼が言いたい」
「言えば良いじゃないか」
「タイミングとか色々無くて……」
「ふむ……」
俺は少し考えてから立ち上がる。
「だったら今から行けば良いんじゃない?」
「でも、もう部活に行った」
「部活に行ったのなら部室に行けば良いだけだろ」
「部活中に仲良くもないクラスメイトがノコノコやって来たら迷惑」
「――それは……言えてる」
流石はシオリ。冷静に分析して空気を読んでいる。
「でも、お礼を言わないと『なんなんあいつ』と、四条さんの中での私の評価がクソになる」
「女の子がクソとか言っちゃいけません……。でも、まぁそうだな……。あの場ですぐにお礼言えってのは酷だけど、お礼を言わずにいるのはちょっと失礼だよな」
それに明日は休みだし、このままじゃ早くても月曜日になる。月曜日にお礼を言っても「え? 今更?」的な感じになるかも知れない……。四条なら多分ならないけど……。いや、ならないからこそ早くお礼は言うべきか。
「なら、仕方ない。一緒に行くか」
「――良いの?」
「俺が冬馬に会いに行くのは不自然な事じゃないだろ? その流れで四条にお礼を言えば良いんじゃない?」
「じゃあそれで」
シオリが立ち上がったので俺も立ち上がる。
「――計画通り」
「今、計画通りって言った?」
「何も」
「いや、今言ったよね。腹黒い台詞吐いたよね」
「そんな事はどうでも良い。早く行こ」
「吐いたよね? 絶対吐いたよね?」
俺のしつこい問いかけを華麗に無視して先に教室を出て行ったので、俺は後に続いた。
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