第15話 許嫁はやはりモテる
昼休み。
本日、冬馬はコンビニ飯という事で一人学食へ向かいラーメンを食べたのだが……二日連続で麺類が続いてしまったので、明日は休みだし、昼飯は外食してパスタでも食うか。いや、そうなったら三日連続麺やないかーい。
そんなしょうもない事を考えながら食後のコーヒーでも洒落込もうと、体育館側にある自販機へと足を運ぶ。
ここの自販機よりも中庭にある自販機の方がメジャーなメーカーが多いのでこちら側はあまり人気が無い。
しかし、あちら側は人が多く、並ばないといけないので、何で自販機如きで並ばなきゃならんのだという感性で人気のない方へわざわざやって来る。
自販機の前にやって来た所『呼び出してごめん』と体育館裏から男の声が聞こえてきた。
これは……もしや……告白か? ――やれやれ……。この学校では毎日告白という一大イベントが開催されているのか? どんな学校だよ……。
なんて思いつつも好奇心旺盛な俺は壁に隠れてこっそり告白を覗いて見る。
そこには、ネクタイの色から二年生と思しき、まぁまぁカッコいい男子と――。
「――シオリ?」
シオリがいた。
――いや、マジで凄いな。あいつ毎日告白されてんの? そりゃ告白された噂が二桁とか三桁とか言われるし、ファンクラブもあるわな。
これはマジで俺がシオリと許嫁なり居候なりの事がバレたらタダじゃ済まなそうだな……。
「――不審者発見」
「うおっ!?」
急に聞こえてきた可愛らしい声に振り返ると、そこには慈愛都雅の天使様という異名を持つ四条 純恋が立っていた。
「何してるの?」
「シッ!」
俺は指を立てて口元に持っていきジェスチャーで体育館裏を指す。
四条は首を傾げながら体育館裏を除くと「おお」と驚きの声を上げる。
「あれって七瀬川さんだよね?」
「ああ。間違いない」
「これって告白?」
「恐らくな」
「おお……。――なら見るのは失礼だね」
「そう言いながら首を引っ込めない辺り、四条も野次馬精神旺盛な奴なんだな」
「そう言う一色君だってそうじゃない?」
「俺は野次馬精神旺盛と胸を張って言える」
「じゃあ、あたしも野次馬精神旺盛だもん」
お互いにそんな馬鹿げた事を言い合っていると「俺と付き合ってくれないか?」と、田中と比べるのは悪いが、落ち着きのある声で告白をしていた。
「おお! 言ったー!」
「さぁどうなると思います? 四条さん」
「そうですね。分からないです」
「そりゃそうだ」
俺達が見守っていると知る余地もない中、シオリはクールに「ごめんなさい」と一言。
「ああ……。ダメかぁ……」
落胆の声を出す四条と共に俺達は顔を引っ込める。
「まぁ一筋縄じゃいかないわな」
「でも、噂は本当だったんだね。七瀬川さん告白一杯されてるって。まぁあれだけ綺麗だったら頷けるよ。女の私ですら恋しそうだもん」
「ふぅん。同性から見てもって事は相当だな」
「あの見た目の通り、クールでミステリアスな感じがたまらないよね」
「そんな印象なんだな」
プロ野球の解説と実況がハイライトを見ながら駄弁っている感じで話し込んでいると「ふざけんなっ!」と男の怒鳴り声が聞こえてくる。
俺達はビクッとなりもう一度顔を覗かせて見る。
「俺が告白してやってんのに何だ!? ああ!?」
あちゃー。中途半端にカッコ良くて、中途半端にモテたから変な性格になっちゃった系男子か……。
しかし、シオリは慣れているのかそんな怒鳴り声にも動じていない様子。むしろ――。
「あわわ……。ど、どどど、どうしよう一色君」
関係ない四条が動揺していた。
「何とか言ったらどうだ!?」
しかし、マズいな。怒鳴るのも最低だが、それ以上――暴力沙汰にならなきゃ良いが――。
「ナメるのもいい加減に――」
これはあかん!
「――ストップ! ストーップ!」
相手が手を出しそうだったので俺はすぐさま飛び出して制止をかける。
「――コジロー?」
振り返って見てくるシオリの顔は無表情だけど、何処か安堵した様な雰囲気を出していた。
「あ!? なんだ!? お前!?」
「落ち着いて下さい。ね?」
怒っている相手だし、先輩だし、という事で宥めるような声を出す。
「お前には関係ないだろうが! すっこんでろ!」
「まぁ確かに関係ないですけど……。好きな女の子に暴力はいけませんよ」
「あ!? なに!? お前聞いてたの? 勘違いすんなよ。コイツと付き合ったら色んな奴にマウント取れるだろ? だから付き合ってやろうと思ってんのに、コイツが調子乗って断ってくるから悪いんだろうが」
マジでいるんだな……。こういう糞人間。
「で? お前はなに? コイツのストーカー? んで、ピンチに駆けつけて助けたら惚れられると思ってる勘違い野朗? キモいんだよ!」
そう言って俺に殴りかかろうとする。
『せんせーい!! こっちです!!』
ふと後方から四条の叫び声が聞こえて俺の目の前で拳が止められる。
「――チッ! クソが! 覚えとけっ!」
二年の糞人間は足早に逃げて行った。
先生を呼ばれた程度で逃げるなんてヘタレだな。そんな奴のパンチなら痛く無かったかもな。
――いや、あのままなら鼻に来るから痛いか……。
「一色君! 七瀬川さん!」
血相変えて四条が飛び出してくる。
「大丈夫? 二人共」
「ああ。俺は」
そう言ってシオリを見る。
「私も」
その声色からシオリも大丈夫そうであった。
「それで? 先生は?」
「あ、あれ嘘。ピンチと思ったから咄嗟に出たんだ」
言いながらピースしてくるのでピースで返して「サンキュ」とお礼を言う。
「七瀬川さん本当に大丈夫? 怖かったね」
「平気」
「ごめんね。告白覗いて」
四条が手を合わせて言うと「問題ない」と短く答える。
「多分大丈夫だと思うけど、ここに長居して仲間連れて報復とかされても困るから人の多い所に移ろう」
「あ、うん。そうだね」
四条が頷いて先を歩き俺も歩き出そうとするとシオリに服の袖を掴まれる。
「どした?」
問いかけてシオリの手を見ると彼女の手が少し震えているのに気が付いた。
見た目は平気な感じだったが、内心は怖かったんだな。そりゃ年上の男に怒鳴られたら怖いってもんだ。しかも、あんな酷い事言われて――アイツ許せないな。
「歩けるか?」
そう言うとコクリと頷いた後に俺を見てくる。
「歩ける……」
その声が少し震えている気がして俺は咄嗟に頭を撫でる。
「大丈夫。心配すんな。次もあんな事があったら教えてくれ。すぐに助けてやるからな」
そう言うとシオリは安堵した様な声で「うん」と答えてくれた。
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