第14話 慈愛都雅の天使様

 シオリの野郎……。俺を放置してさっさと学校に行きやがった。


 確かに学校は別々で、先にシオリが行ってくれとは頼んだが、何も気絶している奴を放置して行く事もないだろう。

 呼びかけるなり、起こすなり、蹴るなりの行為があっても良かったのに。


 自分に都合の良い文句を垂れながら教室に入ろうとする。


「――きゃ!」

「――おっと!」


 擬音にするとパフッと言う感じだろうか。

 俺の胸元に女性徒が包み込まれた。


「――ご、ごめんなさい!」


 女生徒はすぐ様俺から離れると少し頬を赤くしていた。


「いやいや。全然。そっちは大丈夫? 四条」


 四条純恋よじょうすみれ。ショートボブの愛らしい顔立ちをしたシオリとは違うタイプの美少女だ。


 シオリが女優らしい顔立ちなら、彼女はアイドルらしい顔立ち。

 シオリの身長は女子にしたら高いのに対して、彼女は女子にしたら低めの身長。

 シオリのおっぱいが標準位に対して、彼女のおっぱいは大きい。

 

 二人は真逆な美少女である。


 順列を付けるなんて失礼な話だが、そんな学年――いや学内一位、二位と言っても過言ではない二人が同じ教室にいると言う事で、一年一組は有名であった。


 そんな四条が俺の顔をマジマジと見てくると、照れ臭くて視線を逸らしてしまう。

 美少女に見られると照れるのは男の性だよね。


「一色君。頬大丈夫?」

「頬?」


 四条に言われて頬をなぞってみると指に少量の血が付いた。


「あら。四条のタックルで頬から血が……」

「ええ!? あたしの勢いそんな強かったかな? ごめんなさい」

「あはは! 冗談だよ」


 可愛らしく焦る彼女へ笑いながら言ってやる。

 恐らくこれは先程気絶した時にでも軽く切ってしまったものだろう。


 笑いながら自分の席へ向かおうとした所「一色君待って」と呼び止められて立ち止まると、彼女はブレザーのポケットから可愛らしいウサギのキャラクターが描かれたマルチケースを取り出して中から絆創膏を出した。


 そして俺の頬にペタリと貼り付けてくる。


「――これでよし」

「ど、ども……」

「ふふ。また怪我したら言ってね。あたし絆創膏持ってるから」


 四条は手を振って教室を出て行った。


 俺は貼られた絆創膏を撫でながら自分の席へ向かう。


「やはりお前は『慈愛都雅の天使様』派なのだな」


 いきなり聞こえてきた爽やかイケメンボイスに反応すると、今日も相変わらず眼鏡をクイッとしながら親友と呼んでも過言ではない冬馬が隣に立っていた。


「慈愛都雅の天使様?」

「知らないのか? ふむ……。まぁこちらの二つ名は七瀬川さんと比べると知名度は低いか。まぁ良い教えてやろう」

「いや、別に良いや」


 言いながら鞄を机の横のフックにかけてポケットからスマホを取り出す。


「四条純恋は我が映画研究部のアイドル的存在――いや、その存在は我が校のアイドルと言っても過言ではないだろう」

「あ、語るのね」


 スマホを見ながらツッコミ、話半分で聞く事にする。


「誰にでも優しく、気配りが出来、ノリが良い。おまけに胸が超高校生級。――と、いう事もあり『冷徹無双の天使様』に匹敵する人気を誇っている為に付けられた二つ名が『慈愛都雅の天使様』と言う訳だ」

「へぇ。そりゃ凄い」


 最早ツッコミも面倒なのでスマホでニュースを見ながら、あーもうすぐサッカー日本代表戦だー、なんて思う。


「コジローよ。そんなお前は慈愛都雅の天使様が好きなんだろ?」

「どうしてそうなる?」

「先程のやり取り――明らかに恋する男子だったぞ」


 俺は頬を触り問いかける。


「――ニヤけてた?」

「大分な」


 眼鏡を光らせて眼鏡をスチャっとする冬馬。

 ドヤ顔されるけど、美少女が絆創膏貼ってくれたら好きじゃなくてもニヤけるだろ。


「四条 純恋はお前の好きなタイプの条件に全て当てはまる」

「ぬ?」

「『自分を肯定してくれてノリの良い巨乳ショートヘア』――これ寧ろ四条の事じゃないのか?」

「――ふむ……」


 自分の好みと四条を比べてみる。


「確かに……。あー……確かにな……」


 俺は先程の絆創膏を撫でながら肯定する。


「――しかし、お前は何という贅沢な人間か……。冷徹無双の天使様と許嫁という立場でありながら慈愛都雅の天使様に恋をするとは――ラブコメかっ!」

「いや、ちげーから。色々違うから」


 俺は苦笑いを浮かべながらスマホをしまい否定する。


「恋とかそんなんじゃないから。まじで」

「ほう?」

「冬馬こそどうなん? 四条と同じ部活だろ? ――てか……。お前部活の日は毎回機嫌良いのって四条がいるからじゃないのか?」

「――そ、それは……」


 眼鏡をクククイッとし出す。これは図星。相当焦っている様子だ。

 男子あるあるだな。自分の好きな人を友達に「お前あいつの事好きなんじゃね?」とか意味不明なノリに持っていく思春期特有の謎行動の一つ。


「ち、違っ! そ、じゃなっ!」


 珍しく舌が回っておらず大きな声を出す冬馬。あらあらお可愛い事に。


「ふぅん。あっそ」


 含みのある言い方をすると動揺しながら「は、はあ? ち、違うからな! 違うからな!」と言ってくる。


「あいあい。わかりまちたよー」

「本当に違うから。まじ違うから。はあ。違うし」


 眼鏡をグイグイしながら冬馬は自分の席に戻って行った。


 ドSあるある。攻められると弱い……。こいつは本当にテンプレ通りの性格みたいだな。

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