第16話 許嫁のクジ運はエグいがそれは俺も同じ

 昨日の宣言通り席替えらしい。


 本日、午後の授業はLHRだ。

 その余った時間を利用して席替えとの事で、三波先生は教卓の上に自家製のクジの入った箱を出した。


「それじゃあ……。どうしようかな……」


 先生は軽く悩んで廊下側の一番前に座っている相沢くんと窓際の一番後ろに座っているシオリに声をかける。


「相沢くんと七瀬川さんがジャンケンして勝った順からにしよっか。相沢くんが勝ったら廊下側からで、七瀬川さんが勝ったら窓際からで」


 そういう訳で突如始まった席替えの順番を決めるエキシビジョンマッチ。


 たかが確率、されど確率。先に引こうが、後に引こうが確率の数値的には変わりない。

 しかし、人間の心理的問題は変わってくる。やはり、ここは後に引くより先に引いた方がお得感がある。

 残り物には福がある、なんて言葉があると同時に、先んずれば人を制す、なんて言葉もある。


 ま、俺は真ん中の方だから何でも良い。

 

 そんな俺のシラケた態度を余所に、教室内はふんわりと盛り上がりを見していた。


 そして選手であるシオリはやる気無さそうに無表情なのに対して相沢くんは何だか嬉しそうであった。


「はーい。いくよー。さーいしょーはグー――」


 先生が仕切り――基、格闘技のレフェリーの様な雰囲気で仕切ってくれてお互い最初の挨拶代わりにグーを出す。


「相沢ー! 勝てよー!」

「七瀬川さん。頑張ってー!」


 それぞれのフォロワーが声を出し、注目の一回戦が行われる。


「――ポン!」


 先生の熱い言葉とは裏腹な間抜けな台詞が教室内に響き渡った。


 お互いに気持ちのこもった拳を見せ合い、一回戦はドローとなる。


「相沢ー。パーでいけー!」

「七瀬川さんチョキ! チョキ出そー」


 フォロワーがセコンドの様に相手に心理戦を持ちかけていく。


「はーい。あいこで――」


 無表情なシオリとは対照に、相沢くんは冷徹無双の天使様と見つめ合っている為か、口元が緩んでしまっての二回戦。


「――しょ!」


 お互いに様子見のチョキを出して再びのドロー。


「でゅふふ!」


 あいこになり相沢くんの限界が来て吹き出してしまった。


 笑い方のクセが凄いな。


「相沢ニヤニヤするなー」

「キモいぞー」

「七瀬川さん、相沢潰せー」


 なんとここで相沢くんのフォロワー――廊下側の席の連中がシオリ側へ移ってしまう。


 そりゃあんな笑い方を見せられたら萎えるよな。


 味方のいなくなったフォロワー零の男VSクラス中を味方に付けた天使様の三回戦。


 相沢くんはフォロワー零でも負けないと言わんばかりの気合いのこもった拳をもう一度振るう。

 対してシオリは、クラス中の人気を得たよイェーイ、と言う様なチョキを出してしまった。


「おいい。相沢ー。空気読めよー」

「ここは負ける所だろうがー」

「七瀬川さんに譲れー」


 勝ったのに廊下側の連中から言われてしまう。流石はフォロワー零の男だ。


 そんな野次が飛び交う中、相沢くんは拳を天にかがげ「うぇーい」と一目散にクジを引きにいった。


 なんとまぁ強い精神力であろう。彼こそが真の漢ではなかろうか――。







 白熱のジャンケン大会が幕を閉じて、続いて行われる大くじ引大会。


 今回の大会で俺は俺のクジ運にドン引きしてしまいそうになる。


 それは前の席替えの汚名を返上するかの様に冴え渡っている。つまりは最高の席を確保したと言って良いだろう。


 窓際の一番後ろから一つ前の席。


 一番後ろだとプリントを集めたりしないといけないのに対して、この席だとそんな面倒な事はしなくて良い。非常に良い席である。


 しかも――。


「良かったな小次郎」


 斜め後ろには冬馬が眼鏡を光らせている。その言葉の意味は「俺と同じ席だから」という意味なのか、それとも他の意味なのか……。


 そして隣は――。


「今日は一杯縁があるね」


 隣では慈愛都雅の天使様が愛想の良い笑顔で手を振ってくれるので「そだねー」と手を振り返しておく。


 更に後ろは――。


「――なに?」


 そこにはヘッドホンを首にかけた無表情の冷徹無双の天使様が堂々たる座りっぷりを見していた。


「いや、凄いな。二回連続窓際の一番後ろって」

「私位になると当然」

「ごめん。その言葉の意味が全く理解出来ない」


 俺としては冬馬が近くにいるのはありがたい。クラスメイトの中でも一番喋る奴だから。


 そして隣と後ろの席には天使がいる。俺のクジ運は最強なのではなかろうか……。

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