第14話 豚王との宴会
順調すぎる成り行きに、ロンドンはいささか呆然としていた。
豚王国へ向かう旅の途中、彼はそのうち豚王と酒を酌み交わせるようになればこっちのものなんだが、と夢想していた。それがブダペスト到着一日めにして現実になった。
今、彼は王城の中庭にしつらえられた宴会場で豚王、関白、右大臣、左大臣とテーブルを共にしている。
すっげえ展開、と彼は胸の裡でつぶやいた。シベリア公のときもかなりうまくいったと思ったが、今回はその比じゃない。
なんだか翻弄されているような気さえした。
けれど、落ち着く暇もなく現実は進む。キャベツ酒とキャベツの酢漬け、チャーシューなどの前菜が運ばれてきた。
こうなりゃ行けるとこまで行ってやる、とロンドンは開き直り、豚王たちと乾杯した。
豚王はぐいぐいキャベツ酒を飲み、あっさりと大きなジョッキを空にした。侍女におかわりを注がせながら、彼はロンドンに問いかけた。
「ロンドン、おまえの旅人歴はどのくらいになるのだ?」
「かれこれ十四年になります。家を出たのは十一のガキンチョのときですから」
ロンドンも負けじと杯を空け、おかわりを頼んだ。
「ほぉ、余が即位したのと同じ歳だ」
ぷはー、と豚王がおかわりを飲み干した。
「今考えるとよく生きてこれたなと思うような滅茶苦茶やってたときもありますけど、そういうときほど面白いですね」
「そうだ。余も滅茶苦茶が好きだ!」
二人は競うようにぐびぐび飲んだ。
「酒だ! 足らんぞ!」
「おーっ、もっと飲みましょう!」
豚王が騒ぐと、ロンドンもその気になって唱和するようになってきた。
ぷはーぷはーと飲みながら、二人はしだいに意気投合していった。ここはすでに酔っ払いの世界なのだ。ロンドンはこれだから酒はいい、と身分を超越したアルコールの力に感謝した。
しかし、酒は逆の効果を及ぼすこともある。
「陛下、今日は少しペースが早うございます。そんなに飲まれるとメインディッシュの味がわからなくなってしまいます」
関白が何げなく言ったセリフが、豚王の逆鱗に触れた。
「なにぃ! おまえは余がこれしきの酒に飲まれるとでも言うのかぁっ!」
豚王の怒り方は凄く怖い。杯をテーブルに叩きつけ、全身の毛のない毛穴から怒りの波動を噴き出すようにして、彼はいきなり関白を罵倒し始めた。
「だいたいおまえは神経が細かくていかぁん! 余が総学者法というすばらしい法を考えたときも、農民に学問はいらないなどと反対しおって。バカもぉん! 農民が同時に学者にもなる。すっばらしい法ではないか。この無能者めが! そんなこともわからんのかぁっ!」
関白は面目を失ってうつむき、周りの人たちも台風一過を待つ表情になった。ロンドンの酔いもいっぺんで醒めてしまった。
なるほど、これじゃあ関白の在任期間が短いってのもうなずける。気に入られてここまで出世したんだろうに、もうこの関白は豚王に嫌われてしまっているのだ。こりゃあおれもよっぽどうまくやらないと。
宴会がすっかり萎縮してしまったとき、救いの主が現れた。すなわち、香ばしく焼きあがったマンモス肉が運ばれてきたのだ。気分屋豚王は即座に相好を崩し、のどをぐびりと鳴らした。ロンドンはほっとひと息ついて、さぁ平和友好的宴会の再会だ、とフォークを伸ばした。
そのとき、
「あたしを除け者にするの? 関白、席をあけなさい」
透き通ったソプラノが響き渡った。
アイドル歌手かと錯覚するようなかわいー声に、ロンドンははっと振り返った。
豚革ジャケットに豚革ショートパンツをはいて、美脚を見せつけ、ロングストレートの黒髪をなびかせた美少女が立っていた。
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