第13話 ロンドンの古代生物学講演

「陛下は有名な百獣の王、ライオンのことはご存じでしょう?」

「知っておる」 

 ロンドンは豚王がうなずくのを確認した。

「ウサギは、なんとこのライオンのライバルだったのです! 彼らは高速回転する巨大な耳を武器としておりました。両者の戦いは、ライオンがウサギの耳をかいくぐってのど笛を噛みちぎるか、それともウサギの耳パンチがライオンをぶちのめして骨まで砕くか、という実に血で血を洗う死闘でした。私は耳パンチを食らって顔半分をつぶされたライオンが、それでもウサギののどに牙を刺している、という壮絶な化石を発見したことがあります」

 満場、ほぉーっと感心の息が洩れた。

 ロンドンの講演は、真面目な学者の間では作り話との批判もあったが、イマジネーション豊かで一般には受けがいい。彼自身は綿密なフィールドワークに基づく古代生物の復元と信じているのだが、客は半分ほら話だと思って楽しんでいるふしもある。ともあれ、豚王は喜色を浮かべ、ロンドンは得意満面に話し続けた。

「私は凡百の文献学者とはちがいます。世界中を旅し、さまざまな古代生物の痕跡を発見してきました。今日は私が、口先だけの男ではない証拠を持参しております。ご覧ください、化石以外の古代生物生存の証です!」

 ロンドンは携えてきたマンモスの肉を豚王の前に差し出した。

「これがおまえが巨大人骨車で運んできたものなのか?」

「はっ。この肉は数万年間シベリアの氷河の中で眠っていた古代生物マンモスのものです。豚とはちがった珍味は必ずやご満足いただけるものと確信しております」

「なに、食えるのか?」

 豚王ののどがぐびりと鳴った。

「はい。そのために氷を満載した巨大人骨車を用意し、腐らせないように運んできたのです」

 王はにわかに興奮してきたようだった。

「そいつはいいぞ。よぉし、今宵は宴会だ。大宴会だぁっ! マンモス肉を食らい、キャベツ酒を浴びるほど飲むぞぉ。大臣ども、用意せーい!」

 豚王は学問好きの王から宴会好きの王に豹変して咆哮した。あわれ大臣ともあろう者たちが、宴会係に身をやつして慌てて準備に走り出した。あっけにとられたロンドンのもとへ豚王がでっぷり太った体躯を揺らしてやってきた。

「わっはっは、気に入ったぞロンドン! 今夜は死ぬほど飲ませてやるからな」

 どん、と力強く豚王がロンドンの背中を叩いた。そのあまりの勢いのよさにげほげほ咳き込みながら、たまげた王だ、と彼は緊張も畏怖も吹き飛ばして思った。

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