公園にて

PEN

第1話

ダニエルとテオは、白いベンチがいくつか等間隔で置かれたレンガの敷かれた道路の中で、中央辺りに設置されたベンチに座った。


ダニエルの手には紺色の四角い包みがあった。


「いや~お弁当を作って良かったですね~。やっといいとこ見つけましたよ。ね、テオ?」


とダニエルはにこやかに言うのだが


「は~朝起こされていきなりここに来るなんて言うんだから、こっちも疲れましたよ……」


やや呆れた表情のテオはかごバッグをぶら下げていた。今日はいつもとは違う服だ。


「でも弁当を作ったのは俺ですよ♪」


「パンはオレですけどね。で?これからどうするんですか?」


「花畑に行ってその真ん中でキスしますよ」


「はいぃ!?」


驚いたテオは思わずかごバッグを落としそうになったが、魔法で宙に浮く形となった。これはかごバッグを落とさぬようにと予め仕掛けておいた魔法だ。


「――というのは冗談ですが、こうして二人で過ごすのも珍しくなってきたので、お弁当を食べてゆっくりしましょうか」


「はあ…花畑でキスとか何なんですかもう。驚かせないでください。

とりあえず食べましょうか」


二人はそれぞれ持ってきた物を開け、お弁当を食べた。

卵焼き、ミニトマト、唐揚げ、茶飯など色とりどりのダニエルの手作り弁当だ。

そしてかごバッグはクロワッサン、メロンパン、サンドイッチなどのパン類が入っていた。


「やっぱり先輩のお弁当は美味しいですね!」


テオは嬉しそうに弁当を堪能している。


「良かったです。もう弟子が俺の味を忘れ、あのレンとかいう料理人の味しか覚えなくなったかと思うと…!」


レンというのは最近、テオが仲良くなった友達以上の青年である。見た目がテオにそっくりだったが、出身は日本、目は青く正義感の強く男らしい人間である。


「先輩、レンのこと微妙に皮肉にしてないあたり、認めてますよね?」


「それはもう料理界においてはライバルですからねえ」


彼にとっては、同じ料理上手としては決して引けない相手のようだ。


二人は、ダニエルの喫茶店のこと、異世界人のことなど――様々な会話50分ほどでお弁当とパンを完食した。


「ごちそうさまでした」


とテオが言った後にダニエルも同じ言葉をつぶやいた。


「貴方も俺もお互いに大変ですからね。明日もまたお店をお願いしますね」


「はい。またお願いします、先輩」


ニコニコとお互いが見つめ合って数秒後、ダニエルはテオの顔を少し寄せて口づけをした。


しばらくしてダニエルは顔を離した。


「えっ…?」


テオは目を丸くしている。突然のことに驚いているのだ。


もちろん彼とのキスは一度や二度ではない。それでも驚くのは慣れていない、というのもあるのだろう。


「これはお礼のキスです」


ダニエルは今日はすみませんでした、と困ったような笑いを浮かべて謝罪をした。


「いえ、良いんです。改めてまた誘ってください」


「日没の方も?」


意味が分かっているテオは急に顔を赤らめた。


「ばっ…!それは駄目に決まってるでしょ!行きますよ!エル!!!」


ダニエルの愛称をついうっかり呼んでしまい、さらに恥ずかしくなって、そっぽを向いたと思えば、うつむきながら片づけを始めた。


「おぉ…弟子がさらなる成長を見せましたねえ。では片付けをして帰りましょうかね」


こうして二人は仲良く帰っていった。テオの恥じらいが取れたのは数分のことであった。

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