フォース・レター

スマホをチラチラ見ながら駅の前で待っていた。

見ていたのは時間じゃなかった。

早かっただと分かっていた。べつに焦っていた訳じゃなかった。

ただただ刹那ちゃんからのメイルを何回読み直したかっただけ。

クリスマスからもう数日たった。もうすっかり冬休みだった。

ここで待ち合わせするのはメイルで約束を立てた。

初彼女との初めてメイルでのやり取りだったからまぁテンションが高かった......ほっとけ。

当然、初デートだからもう宇宙だった。前の夜ほぼ寝れなかった。

妙にあんま疲れてなかったけど。



「あっ!」



刹那ちゃんを見かけて手を振った。

(うわぁ可愛い。)

こっちに向かって来た姿を心に刻んだ。

(この景色ー後何回見れるだろうか......)

そんな考え直ぐ消した。



「ごめん、待った?」

「いやいやまだ約束の時間じゃないよ。」



お互い張り切ってる事を分かって笑った。



「あ、あのさぁ刹那ちゃん......」

「ん?」

「私服......似合ってるよ......可愛い。」

「ふーん......八十点。」

「採点されてる!?」

「ありがとう、真生君いつも通りかっこいいよ」



刹那ちゃんの純粋な笑顔に偽りが無かった。



「嘘付け!かっこいいなんて言われた事無いよ。」

「ふふっ、それは〜私だけが本当の真生君を知ってるからじゃない?」

「いきなり真面目に答えるな......」



恥ずかしさを必死に抑えようとしたけど駄目だった。

(やり返すよ本気で......)

そんなのんびりな事考えれたんだ。



「綺麗だねー。」

「そうだなー。」



電車が薄っすらっと雪に覆われた田んぼと山に通りながら一緒に外の景色を観察した。

行く先は北の温泉街だった。

予定は周りの温泉を体感して旅館で一夜泊まってお土産買って朝の昼ぐらいに帰る。



「へ〜七つの温泉があってそれぞれ違う治癒特性がるらしいよ。全部入れば幸運だってさ。」

「良さそうだろ?だから来たかったよ。あぁでも先ずは旅館に立ち寄って荷物置いとこう。」

「そうね、後浴衣に着替えなくちゃ。」

「え?浴衣で回るの?」

「温泉街はそういう事よ、真生くん!」

「まぁ夏祭りじゃなくても刹那ちゃんの浴衣姿が見れるって......悪くないか。」

「うんうんそんな調子でね。」



こんなのんびりな会話が続けた。



途中でいきなりお腹が鳴った。



「うわ〜恥ずっ。」



音が凄かったから刹那ちゃんが爆笑した。



「着くまで保つと思ったけど駅で何か買ったら良かったな。」

「もう数時間たったねぇ、ちょっと待て。」



刹那ちゃんが鞄から何か引き出した。

布に包まれた箱だった。



「これは!」

「じゃじゃーん!っと言いたいけど初めて料理したから味はどうかな......あ!でもこれからママに教わるから次は期待してね。」



開けたら非常に見覚えがある物が揃った。

(卵焼き、タコウインナー、唐揚げなどなどーザ弁当って感じだな。)

刹那ちゃんが自分の分を食べてた。



「野菜の切り方はめちゃくちゃだね......お米濡れてるし、卵も甘すぎ......ごめんね。」



思わず一瞬で食べ切った。



「いや、最高の弁当だった。」

「......ゼロ点。」

「前よりめっちゃ下がってねぇか!?っつぅかゼロはさすがに酷くね!?」

「だって真生君の嘘つき......全然美味しくないよ。」

「その弁当はな、真の味が刹那ちゃんの事大好きなやつしか分からねぇよー高級料理だから。」

「それ、褒めてるの?」

「お母さん味見しただろ?多分ほぼ同じ事言ったね。」

「......急に真面目になるの狡いよ。」

「食べないならよこせ。」

「嫌だ。」



刹那ちゃんが顔真っ赤で弁当を食べた。

(よし、これチャラだ。)

刹那ちゃんの手料理を食べられたのは嬉しかったけどそれより刹那ちゃんが新しい事挑戦してるって事はまだまだ生きるつもりだと気づいたら一番嬉しかった。



昼過ぎちょっとで旅館に到着した。

さすがにまだ学生だからそんなに凄いやつじゃなかったけど、シンプルでそこそこ綺麗だったので今はそれで良いかな。

でもそんなの気にせずに状況でわくわくした。

だってさぁ二人で温泉街に回って旅館で泊まるなんてどう見ても豪華な初デートだった。

街自体が白に染まって想像以上凄かった。

混雑じゃなかったけど、結構人居たね。

浴衣だけで寒かったから初めて手繋いだ。

温泉に入る前、もう謎に顔が熱くなってきた。

一個ずつ天然温泉に入ったけど、本気で痛かったから数分間しか耐えれなかった。

お陰で七つの温泉早く回れた訳だ。

温泉の影響かも知れなかったけど、途中から恥ずかしがらずナチュラルに手繋いでた。

でも正直刹那ちゃんの浴衣姿に見惚れちゃった。

(更に温泉上がりで髪が少し濡れてるし肌がちょっと赤くなったし......もう無理そう。)

旅館から貰った浴衣が薄めのやつだけど、雪が肩に溜まっても全然気づけない。

夕方になったら白い景色がオレンジ色の光に浴びた。

まるで違う世界に紛れ込んじゃった。

来る前に色々悩みとかあったけど、結局夢みたいな時間になった。

その夢の中でも、どうしても目が側に居た子に惹かれちゃった。

(どんな気持ちでここに連れて来ちゃった......刹那ちゃんが分かってるだろうな。)

最初に会った頃の表情と全然違う微笑みー感謝の気持ちが伝わって来る。

(良かった......)

こんな日、後何回許されるの?

またそういうの心の奥に埋めるしかなかった。



部屋に戻ったら一日分の燥ぎを一気に感じた。

刹那ちゃんが直ぐ布団の上に転んじゃった。



「そのまま寝るの?お風呂は?」



ちょっとからかいたかった。



「七回はもう十分よ〜。」

「でも男女別々だから、せっかくなら一緒に入らない?」

「......良いよ。」

(ーっえ?)

「いやいやいや待て待て待て冗談だけど???お願いだからツッコんで!」

「良いんじゃない?思い出を作るために来たし。」



刹那ちゃんが布団から上がって読めない顔でこっち見たんだ。



「いやでもさすがに......」

「私だって残ってる時間に......不安だよ......」

「刹那ちゃん......」



動けなかった。

喋れなかった。

刹那ちゃんの事情を知ったから冷静の振りをしていたが、実際のとこ頭がぐちゃぐちゃだった。

普通なら時間がかかる事を無理やりでも早くするべきか?

それとも残りの時間はなるべく普通に過ごした方が良いの?

ここに連れ出したのも、彼女ならきっと僕の思いを分かってて多分感謝してる部分もあるけどもしかしてお節介なの?気を使われてんの?

(正解が分からない。刹那ちゃんに何がベストか......)

今まで周りなんて見ようとしなかった自分じゃこんな複雑な状況を上手く解決なんて絶対ありえない。

だから諦めた。



「ーっ!ま、真生君!?」



彼女にしがみついた。



「ごめん、刹那ちゃん......どうすれば良いの?出来るだけ一緒に時間を過ごし思い出を作りたいのにそれで残りの時間が少ない事を常に意識しちゃう事になる。もし刹那ちゃんがそれが嫌なら、何も考えずにゆっくり過ごしたいなら......僕もそれで良いかも。」

「それは......」

「ゲーセンに行った時覚えてる?実は僕友達と行った事無いよ。多分寒いのによりによってビーチで暇つぶししたのは寒いからこそ人が絶対来ない訳だ。昔からこんな奴だったんだよ。力になりたいけどこんな奴今更何が出来るとか嫌でも思っちゃうんだ......」



彼女を放して目が合った。

そう......何でもかんでも一人で抱えようとするのに諦めた。

彼女の表情がやっと柔らかくなった。

僕の顔に手を伸ばした。



「そこま悩んでたの?私こそごめんね......私の存在がいずれ真生君に負担なるって最初から分かってたのにね......」

「感違えすんなーその負担を僕が抱えさせてけれないかとお願いしたんだ。」

「そうね、確かに。じゃ......私が居る限り半分ぐらい分けて欲しい。」



刹那ちゃんがが僕の頭を胸に埋め込んだ。

喉が枯れるまで泣き続けた。



「......あのね。」

「ん?」



布団の上で手繋いでた。



「私......帰り道で友達とクレープとか食べた事無いよ。」

「そう?」

「私ね......真生君じゃなきゃ多分駄目だったと思う。」

「......」

「お互いね、自分が何やってるか分からなくてー心配するの当然だね。でもよ......私達なら、あの砂浜に引き寄せた私達なら......なんとかなると思う。」

「やっぱ凄ぇな、刹那ちゃんって。」



刹那ちゃんが僕に向かって微笑んだ。



「今は私の番だけど、後は真生君が強くならなきゃね。」

「逆じゃない?」

「それより真生君一緒にお風呂入るでしょ?」

(まだ忘れてなかったんか!?勘弁してよ......)



(寒い......)

服ちゃんと重ねて着てるのにさすがに真冬の早朝は強敵だ。

刹那ちゃん家の外で待っていた。

数日が経って一緒に初詣に行く予定を建った。

まぁー多分家にお邪魔しても全然良いけど彼女の両親と会う心の準備が出来てないんで......



「ごめ〜ん!着るの思ったより大変だった。」

「......っ!」



刹那ちゃんが真っ赤な着物を着てる姿が表した。

周りの真っ白な雪とのコントラストが映画の一フレームにしか見えなかった。



「ね〜頭氷漬けになった〜?だから中で待ってと言ったのよ。」

「......綺麗だよ。」

「っえ?あ、うんー百店満点。」

「また採点されてんの!?いやそれよりその服で大丈夫?めっちゃ寒いんだ。」

「そうなの?あんまり感じないけど......」

「本気かこの子?僕より体全然強いんじゃねか。」

「まぁ健康は大事にしてるからね!真生君野菜ちゃんと食べな〜?」



刹那ちゃんがお母さんみたいな事言って僕はちょっといじられてたけど......嫌じゃない。



でも本当だ。短い間とはいえ、刹那ちゃんが症状とか見せた事無いから。

むしろ僕より全然元気だ。

先週の不安がほぼ収まった。

(その時はその時だ......今のうちにやれる事全部やっちゃう。)

運命が変えられないとしてもー時間はある。

僕にとってそれが唯一の救いだった。



両親との初詣、もう何年間行ってない。

当然、代わりに友達か彼女かとやってた訳じゃない。



「人多いね......」

「しかも寒っ。」



刹那ちゃんも多分同じ事考えてた。



「足大丈夫?下駄に慣れてないだろ?温泉で気づいた。」

「ん〜大丈夫そうけどー」

「掴まって。」



腕を差し伸べた。



「うん。」



掴まれたと急にもう寒くなくなっちゃった。

周りに色んなグループが見れた。

親子とか、女子大生とか、カップルとか......

こういうのをずっと避けてた僕には割と厳粛めなイベントでもテンション上がっちゃった。

まだ短い間なのに刹那ちゃんと一緒に居たおかげで新しい事ばかりだ。



僕の願いに関してまぁ......ぐちゃぐちゃだった。

神様が実在したら困ってるだろうな。

でも簡単に纏めちゃったら刹那ちゃんの幸せを願った。

せめて気持ちぐらいが神様に届いたら良いな。

割と長く祈ったと思ったけど刹那ちゃんがもっと長かった。

お互い何願ったか聞かなかった。

その後おみくじ引いたけど僕「大凶」貰って凄い笑われた。

(大凶って都市伝説じゃなかったんか?)

刹那ちゃんが「大吉」なんて大当たりしたけどちょっと皮肉な感じであんな苦笑なんて初めて見た。

後お守り交換した。

僕は健康型な奴をあげて刹那ちゃんが受験生型な奴をくれた。

神社の階段に降りながら刹那ちゃんが前より僕に寄りかったと気づいた。



「大丈夫?」

「うん......少しね......」



家まで歩かせたくなかったからタクシー呼んだ。

到着したら結局刹那ちゃんの両親と会っちゃったけどちょっとしか話せなかった。

おじさんがお礼をしてタク代まで出したけど正直帰りたくなかった。

帰ってからもずっと心配して落ち着かなかった。

でも邪魔したくなかったから様子を聞くのは明日で良いと思った。

刹那ちゃんと外出かけたのはあれで最後だった。

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