セカンド・レター

迫って来る試験に怖がったから、特に真面目じゃない僕は塾の授業だけで真面目に聴いた。

その日は落ち着かなかったけど。

まるで水の中に聴いていた、先生の声がくぐもった。

席は黒板に近かったのに文字が全然見えなかった。

ずっとじっとしてられなかった。



そこでちょうど休憩になった。

急いで教室から逃げた。

ある廊下であんま使われてない自販機があった。

休憩の時間にそこらへんのベンチで休んだ。



コーヒーを買って取りに行った時に横から声掛けられた。



「真生ー君?」



昨日の夜から頭から離れなくて、急に目の前出て来た。

眩しい蛍光灯の下にあの子の目がより輝いた。



「お、おぉ......刹那ーさん。」

(昨日より声震えてないけどまだちょっと......)



(どうしてこうなった?)

自販機の近くに一人分の間離れて二人でベンチに座っていた。



「な、何ですか?」



刹那さんの笑顔からまだ緊張感が見えた。

(やっべ、思わずじっと見てた。)



「あ、いやただコーンスープ苦手だからつい気になちゃった。」



一応嘘じゃないけど、明らかにそんな理由で見ていたわけじゃない。



「へーそうですか?ふふっ」

(あ、あれ?可愛い。)

「好きなの?コーンスープ。」



刹那さんが持っていた缶にジェスチャーした。

(お見通されたかどうか分からないけど取り敢えず逸らすしか無い。)



「そうですね......嫌いじゃないんですけど、健康に良いと聞きましたからー特に心臓にですね。」

「へーコーンスープのくせにやるじゃん。」

「ちょっと見直しましたか?」



いつの間にか刹那さんの硬い表情が少し柔らかくなった。

昨日会ったばっかのやつと当たり前のように笑って喋ってる。

本質は本当に見た目通り、元気で明るい子かと思う始めた。



「でも本当に同じ塾に通ってますね、真生君よく気づきました。」

(いや、そりゃ気づくよさすがに......)

「まぁ周りの事ちゃんと見てるとよく言われるから。」

「え?そうなんですか?」

「嘘だけどね。」

「真顔で嘘付けれるタイプですね、覚えておきます。」



抑えようとしたけど、二人の笑いが廊下で響いた。

良いんじゃね?誰も来ないし。



「すまん、こっちの先生がおしゃべりな気分だった。」



塾はもう終わった。

入口の近くに刹那さんが待っていた。



「大変そうですね。」



刹那さんはもう自然に笑っていた。

その時、僕の顔の色が夕日に隠されていた事に感謝した。

(何だ、この状況?)

さっき休憩中で話してたとお互い学校の友達が塾に居なかったと知った。



「確か、真生君は帰り道でよくあの砂浜に行きましたっけ?」

「大抵はね。刹那さんは?予定が無いならどっか行こう?」



一体何処からほぼ初対面な女の子を誘える勇気を引き出しただろう?

そこで奇跡的に刹那さんが自然に「良いですね!」なんて言った。



「んーでもどうしますか?」

「そうだな......友達と何してんの、普段?いつも塾でめっちゃ勉強してその後ただ帰ったらつまんねぇじゃん。」

「確かにそうかも......じゃ、真生君は何してますか?」

「それは......ゲーセンとか?」

(友達が居たらね。)

「あ!そうですね......行きましょう!」



刹那さんが急にちょっと変なテンションになっちゃった。

(やっぱまだ緊張してれだろ。)

でも結局嫌じゃなかったみたいであんまり気にしてなかった。



「へーこんな感じですか、ゲームセンター。」

「本気で入った事無いの?」

「周りに若い女子何人見えますか?」

「......確かに。」



町歩き回ってた頃、このゲーセン何度も外から見たんだ。

それを覚えてここに連れていた。

実際ゲーセンに入った機会は片手で数える。

入った時でもいつも一人だったから割と直ぐ帰っただけ。

(何か僕でも得意そうなやつ無いかなーあ!)



「ね、あれやってみない?よく友達と遊ぶんだ。」



奥にレースゲームを見かけた。



「確かに男子が好きそうですね。」



刹那ちゃんののテンションが上がった気がした。

(よし、順調だ。)



(ど、どうしてこうなった?)

確かにあんなゲームほぼ触れた事なかったけど、刹那さんならもっと知らなかったはずだったのに......



「ね、正直毎日ゲーセンに行ってこのゲームだけめっちゃ練習してるだろ?」



僕は刹那さんにボコボコされた。



「いいえ全然!私、もしかして天才かも?」



テンションがもうMAXだった。

ゲーセンの雰囲気に引っ張られたかもだけど、僕も意外とやる気が出た。

(やったくれたなー僕だってプライドあるんだよ!)



結局最後のゲームが一番酷かった。

張り切り過ぎて車を上手くコントロール出来なくてガードレールにぶつけて爆発した。

刹那さんが笑い過ぎて昨日砂浜で会った子何処行ったと思った。

でも何故かあんまり悔しくなかったけど。



「初めてゲーセンに来ただろ?他に何かやってみたい事ある?」

「そうですね......あ!あれならどうでしょうか?」



(あれってーなるほど。)

自分の中でちょっと笑っちゃった。



「どう?悪くねぇだろ、ゲーセンって。」



自分だって本当にゲーセンで楽しんでたのは初めてだけどね。



「ふふっレースゲームでボコボコされましたのに?」

「ちょっとちょっと、クレーンゲームで少し名誉取り戻したやろ!」

「そうですね......ありがとう。」



彼女の顔が隠してたのでほぼ聞こえないけど。

そう、結構大きめのぬいぐるみ持ち歩いていたから。

でもいきなり照れちゃったら僕も恥ずかしくなった。

僕の負け姿がもっと見たかったかそれともカッコつけるチャンスを与えたかったか僕の妄想しだい。



「今度は刹那さんの番だ、帰り道で友達と何するの?」

「それは......何か食べますー甘い物とか?」

(え?僕に聞いてる?)



でも確かに女の子が既に甘い物食べてるイメージあるんだなぁと勝手に思った。

男子が既にゲーセンに居ると同じレベルの考えだった。



「そしたら良いとこ知ってると思う。」



僕達にはそれぐらいが良いと思うんだけどな。



「ど、どうしましたか?」



(デジャヴってやつか。)

数時間前似たような状況に居た気がする。

刹那さんをクレープ屋さんに連れていて近くあった公園のベンチに座った。



「鼻にちょっとクリームがー」



ティッシュで拭いた。



「え?やだっー恥ずかしい......あ、ありがとう。」

(期待以上のリアクションだ。)

「嘘だけどね。」

「え?!真生君もうー!」



あんな可愛い拗ねてる顔を見せられるとさっきのレースゲームはもうチャラにする。

小さい男なんて知るか!僕だってプライドあるっちゅのよぉ......



「いやぁでもなんか女の子がいつもスイーツ欲しがってる理由分かったかも。」

「でしょう?私もゲームセンターの良さに目覚めました。」

「良さに目覚めたってーただ暴れてたんじゃねぇの?」

「誤解です!どこでも居るピッチピッチな女子高生みたいに思いっきり遊んでただけです!」

「その言い方、おばさんでしか聞こえないけど。」

「あ〜あ無理ですこの人。」

「あ、そう?楽しかったけど。」

「......うん、私も。」



(ね、お互いのクレープ一口だけ食交換しようーなんてさすがに言えないか。)

いつも帰り道でぶらぶらした孤立な砂浜がその時完全に頭に無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る