ページ2 メッセージ
「聞いたぞ! 雅」
「お前ってえりこを追いかけてるってホント!?」
「いや、女の子に興味ないと思ったらこういう事だったのか」
「思わぬ落とし穴だったぜ!」
同じ文芸部所属の、俺と同じクラスの
しかも俺が1番触れられたくない話題だ。
えりこへの気持ちは俺の心の奥にしまっている大切な宝物で、こうやって掘り出されたら、言葉に出来ないような喪失感のような感情を覚える。
「誰から聞いたんだ?」
質問してはいるものの、犯人は誰だかだいたい予想がつく。
俺がえりこに追いかけてるって思い込んでるのはたった1人しかいないから。
「誰って? 琴葉ちゃんだよ」
やはり。
琴葉は帰宅部だけど、なぜかよく文芸部に遊びに来る。いつの間にか湊と瑞希とも仲良くなっている。
「なんだ? なんだ? 雅がえりこを追いかけてる話してるの?」
そして、さりげなく俺らの会話に混ざってくる真犯人。
「琴葉、そして、お前らもよく聞いてくれ。俺はえりこを追いかけていない」
ちょうど琴葉も来たことだし、この際はっこりと否定させてもらった。
琴葉にはちゃんと否定しといたのに、1回だけじゃ効果が薄いようだ。
「でも、えりこの写真100枚以上保存してるって?」
「な、なぜそれを知ってる!?」
咄嗟に湊の口から出た言葉に、俺は動揺を隠せなかった。
えりこを追いかけてると思われるより、この事実を知られる方がよほど恥ずかしい。
「え? 普通に琴葉ちゃんから聞いたんだけど」
「俺も」
それも言っちゃうんですか、琴葉さん。
「それはあくまで憧れだから」
これで通用するかは分からないけど、一応弁解はさせてもらった。
実際、ほんとに「憧れ」なんだから、嘘はついてない。
「いやいや、アイドルの写真を保存してるなんて、オタクかガチ恋のどちらかしかないんだよ」
湊がドヤ顔で自分の歪んだ知識を披露してくる。
「まあ、なんだ。俺ら親友だし、引かない……よ?」
そして、同情の眼差しを向けてくる瑞希。
「うんうん、もっと言ってやって!」
しまいには、司令官のように腕を組んで指示を出す琴葉。
誰か助けて……
「
「
思わぬところから助っ人が来た。いや、いつもの事か。
いつも思うんだけど、なぜこの2人はフルネームで呼び合うんだろう。
「わたし、今日は83だよ!」
「残念だったわね、私は今日84だ!」
なんの数値かって? それは決してテストの点数なんかじゃない。
クラスの男子たちは鼻血が吹き出すのを我慢してるところを見てなんとなく察していただきたい。
ぶっちゃけバーストのサイズだ。
2人して毎日しょうもない勝負をしてやがる。
そこのサイズって毎日変わるもんなのか。
「くっ、今日も負けた……」
「今日も私の勝ちだね、わっはっは」
白雪さんの出現により、湊と瑞希の関心はすっかり俺から離れた。
不本意だが、一応助かった。
「ふむふむ、今日は83か」
「するとCかDかな……?」
湊と瑞希は神妙な顔つきになり、名探偵ばりの推理を披露した。
相変わらず猿芝居が好きな2人だな。いっそコンビ組んで漫才でもやってほしい。
ちなみに、この勝負が始まってから、白雪さんは1度も琴葉に勝ったことがない。
なぜなら、2人のサイズは勝負当初からちっとも変わっていないからだ。
そして、湊と瑞希の推理も毎回同じ結論に達する。
なのに、ほぼ毎日このくだりをしている当たり、2人は一日だけでひょっとしてひょっとしたらそこが大きくなるかもしれないと本気で思ってるのだろうね。
白雪さんを加えて、文芸部の全メンバーはここに揃った。つい最近卒業した3年生と幽霊部員を除いてだけど。
教室を見渡してみると、男子たちは慌ててこっちから目を逸らす。
いや、本人たちが堂々とやってんだから、お前たちも恥ずかしがる必要はないと思うのだが。
「おう、白雪、来たか」
さっきの争いがなかったのように、湊は白雪さんに話しかけた。
「聞いてよ、白雪。雅ってさ、えりこの写真を100枚以上保存してるらしいよ」
「え? それはちょっと引くかも……」
瑞希の言葉に反応して、毎日俺をドン引きさせている張本人の白雪さんがなぜか今や苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ざっと100匹くらいの感じ。
てか、俺の話は終わりじゃないの?
「あっ、もしかして、雅くんの小説のヒロインのモデルってえりこなの?」
「えっ?」
「だって、雅くんの小説のヒロインってみんなアイドル気質で美少女じゃん」
白雪さん、鋭い……
ブーブー。
いいタイミングに携帯が鳴ってくれた。
俺は思わず今メッセージを送ってくれた誰かに感謝の気持ちを捧げた。
「ごめん、携帯鳴ったから」
「あっ、雅くん逃げようとしてる」
「雅は姑息な男だよ」
確かに、白雪さんの言う通り、俺はこの「雅の恥ずかしい話を全部暴露してやれ」みたいな企画の匂いがする話題から逃げようとしてるけど、なぜ琴葉に姑息と言われなきゃいけないのだろうか。
今度は琴葉の秘密をみんなに暴露しようかとこの時、俺は本気でそう思ってしまった。
RINEだ。えーと、渚さんから?
少し前にRINEを交換してはいるものの、俺と渚さんの間にはメッセージのやり取りはなかったから、微妙に嬉しくなった。
『花見』
うん。
どういうこと?
文芸部だからというのもあって、俺は色んな作品を読んできた。
それでも、渚さんのメッセージは理解に苦しむ。
「あれ、雅くん、女の子とRINEしてる~」
「ほんとだ……」
「雅って女の子に興味無いと思ってたけど、彼女がいたんだね」
「俺を出し抜いたな!?……このやろう」
気づいたら、4人は俺を囲む形で、俺の携帯を覗いていた。
なんでこいつらはずけずけと人の携帯を見てあることないことを大声で言えるのだろう。
「あの、このやり取りを見て、相手が彼女に見えますか」
もはや、4人にプライバシーとかいうものを説く気にもなれず、俺は潔く携帯の画面を見せた。
「あっ、ほんとだ。女の子から一通のメッセージしか来てない」
「安心し……いや、やはり雅はモテないんだね!」
「雅、お前、男がいいのか。男がいいのだな!」
「くそっ、びっくりさせやがって! あとでジュース奢れや!」
湊はいつものようにからかってくるし、瑞希はいつものようにばかなことを言っている。
なぜか瑞希からしたら、悪いのは俺らしい。
「奢るわけないでしょう? もう見せたから、全員回れ右!」
いつまで俺の携帯を見てるつもりだ? さすがの俺でもいたたまれなくなってきた。
「「はいはい」」
俺に促されて、だるそうな返事して、4人はやっと解放してくれた。
ブーブー。
よかった。渚さんもやはりあれだけじゃ伝わらないって分かってくれたみたいだ。
『2週間後』
なんですか、これ。
謎解き?
ブーブー。
次のヒントか?
『無視?』
ちょっと待って。何を返せっていうんだよ。
『無視してない。返事を考えてる』
とりあえず、急いで返事をした。
渚さんって暇なのかな。さっそく返信が帰ってきた。
『OK以外の返事ってあるの?』
ごめん、何にOKすればいいのかまったく分かりません。
『逆にそれ以外の返事はないと思ってるんですか?』
渚花恋さんはえりこに似って、俺の理想そのもの。
本来は俺とは縁遠い美少女……いや、琴葉と白雪さんも美少女か。しかもレベル高い方の。
でも、渚さんとは出会った時に変なやり取りをしたせいか、俺は意外と気軽にRINEの返信ができた。
渚さんとえりこが似てると思うと、多少緊張してなくはなかったけど、向こうのメッセージがあれだから、その多少の緊張もすっかり消えて無くなっている。
『えっ?』
ほんとに単文というか、単語しか送ってこないね。
『何かあったの?』
これなら、俺から聞くしかない。
渚さんに一方的にメッセージを送らせたら夜中になってもなんの要件か分からなさそうだ。
『2週間後に花見にしに行こうって今言ってるじゃん』
そういうことだったの? 渚さんって本気でさっきのメッセージで伝わってると思ってるの? 少し渚さんのことが心配になってきた。
俺と同じ17歳ってことは、同じ高校2年生ってことだよね。
大丈夫? そのコミュニケーション力で学校では虐められてないかな……
『ごめん、分からなかった』
『私、こう見えても忙しいんだからね、早くOKして貰わないと困る』
『こう見えてもって、俺渚さんのことよく知らないし』
『酷い……一ノ瀬くんがこんな子だとは思わなかったよ( ´ •̥ ̫ •̥ ` )』
さっきまでは短文ですらない単語だったのに、今は偉く饒舌になっている渚さん。
『とにかく2週間後の土曜日、さくら橋で待ってるから』
『時刻は指定していませんが』
『あっ、忘れてた~ 朝9時ね! じゃ! 私はこう見えても忙しいのだから』
なんでそんなに忙しいことを強調するのだろうか。
渚さんの勢いに負けて、俺はしぶしぶOKした。というのは嘘で、実のところ、渚さんが誘ってくれたのはすごく嬉しなった。
「雅くん女の子とデートの約束してる」
「まじかよ、やはり女の子に興味があったのか!」
「ちくしょー、雅のくせに」
お前ら、なぜまた俺の携帯を見ているんだ?
もしかして海馬の容量は金魚並なのか。3秒で俺の話したことを忘れるのかな。
まじで4人まとめて水槽買ってうちで飼ってやろうか。
「私と一緒に風呂入っておいて、ほかの女の子とデートだなんて……ひどい」
「何百年前のことですか?」
とりあえず、琴葉の誤解を招くような言葉には反論しておいた。
頭を下げているというか、俺は今琴葉の部屋で土下座をしている。
「琴葉、俺にファッションを教えてくれ!」
「ふーん、ほかの女の子とデートする時に着る服を私に選べって言ってるの?」
「その通り」
「あほか!」
俺の頭に琴葉の足が乗っかってきた。
でも、ここは我慢だ。
なにせ、俺は渚さんによく見られたいのだから。
本をたくさん読んで、それに触発されてずっと小説を書いてきた俺にはデートに着ていく服装が分からない。
「お願い! 俺が頼れるのは琴葉しかいないんだ」
「そ、そう?」
本当はキラキラした目で琴葉を見つめて降参させる作戦だったが、頭を琴葉の足で抑えられているから、それも叶わない。
琴葉は動物が好きだから、子犬のような目を向ければ簡単に落ちるものかと思ってたのに……
てか、絶妙にいい匂い。琴葉の足。タイツ履いてるから、感触も抜群だ。
って、俺は一体なにを考えてるんだ。
落ち着け、俺。相手は琴葉だよ? 十何年前からずっと一緒にいる琴葉だよ?
「頼む! 琴葉は服のセンスだけはいいから」
「やっぱ、いっぺん死んどけ!」
俺の頭は琴葉の足にぐにぐに踏まれていた。
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