第281話 苦労人
「はい、確かに承りました。担当は私ナディアになります。以後よろしくお願いします。もっとも、私以外誰も居ないんですけどね...」
そう言って苦笑した受付嬢さん。お名前はナディアさんと言うらしい。
「えっ!? 他にどなたもいらっしゃらないんですか!?」
そんなこと有り得るの!?
「はい...お恥ずかしい話ながら...」
「お一人だと大変なんじゃないんですか!?」
「えぇ、本来なら到底無理な話なんですが、ご覧の通りの有り様なんで私一人でもなんとかなっちゃいますね...悲しい事実ですが...」
「それはまた...」
私は二の句が継げなかった。
「ちなみにギルドマスターも左遷されてしまって居ません...だから私が暫定でギルドマスターやってます...」
「えぇっ!? ま、マジですか!?」
ビックリだよ!
「マジなんです...私はこのギルドでギルドマスターに次ぐ古参だったせいもあって、他のみんなが逃げ出して行った後も残って頑張っていたんですが、その内に逃げるタイミングを逸してしまいまして...気が付いたらこんな状況に...」
「で、でも暫定ってことは何れどなたかいらっしゃるんですよね?」
「さぁ、どうなんでしょう...誰も来なかったりして...」
ナディアさんは苦笑しているが、私はとても笑えなかった。
「え、え~と...その...頑張って下さい...ね?」
私はそれくらいしか言えなかった。
「ありがとうございます...」
◇◇◇
「フゥ...なんだか世知辛い話でしたね...」
ギルドを出た後、居酒屋に向かう道程を歩きながら、しみじみとフローラさんがそう言った。
「えぇ、全く...それにしても『何でも屋』に件の男爵家が絡んでいるとは思いもしませんでしたね...」
「そう言えば...お店にいらっしゃるお客さんが最近良く『何でも屋』のことを話題に上げていました...」
「そうなんですね」
どうやらこの町に根付きつつあるのは間違い無さそうなんだな。
「カリナさん...その...本当に大丈夫でしょうか...」
フローラさんは不安を感じてるようだ。まぁ無理もない。相手が力を持ってるからね。だから私は、
「大丈夫ですよ。フローラさんの依頼は冒険者ギルドを通した正式なものなんですから。なんの問題もありませんよ」
「だといいんですが...あっ! 依頼と言えば例の手数料の件ですが」
「あぁ、その分は賄いになにかトッピングでもして貰えればそれで構いませんよ?」
「そんなんでいいんですか!?」
「はい」
「本当に..何から何までありがとうございます...」
「いえいえ、乗り掛かった船ですから」
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