第279話 バックに居るのは

「ギルドとして正式に抗議したりとかはしなかったんですか?」


「一応ギルド本部にも問題提起はしてはみたんですけどね...結果は抗議するのは難しいだろうという返事でした...」


「どうしてですか?」


「向こうが例えばあからさまに『新ギルド』とか名乗れば話は別なんですが...一応『何でも屋』ってことになってますし、競合しているということには該当しないと...」


「でも業務内容は完全に競合してるじゃないですか?」


「それでもです。ギルド本部の意見としては『だったら内容で上回ればいい』というものでした...そりゃそう言うのは簡単ですが、行うのは難しと言いますか...お客さんにとってみりゃ、多少不安な所があったとしても、やっぱり安い方に目が行っちゃいがちですからね...お客さんがそっちに流れて行って、こっちが閑古鳥の鳴くような状態になってしまうのはすぐでした...そしてそうなれば優秀な冒険者だった人も、やっぱりそっちに流れて行っちゃう訳でして...そりゃ当然ですよね...仕事無けりゃ生活できないですもん...そんな悪循環に陥ってしまっているのが現状ということになります...」


「なにか対策は講じなかったんですか?」


「一応、営業の真似事はしてみましたが...ご存知の通り、冒険者ギルドは営業なんかしたことありませんので、そういったノウハウがありません...今までそんなことをする必要がありませんでしたから...付け焼き刃ではとてもじゃないけど本職の営業力には敵いませんでした...」


「なるほど...」


 これは確かに手詰まりっぽいな。でも私にはどうしても疑問に感じることがあった。


「しかしいくら安いとはいえ、そんな簡単に新興企業にお客が流れるもんなんでしょうか? ギルドには今まで積み上げて来た実績と信頼があるんじゃないんですか?」


「実は『何でも屋』のバックにはとある貴族家が付いているんです...それでお客さん達も安心して鞍替えしたんだと思います...」


 私はなんだかイヤな予感がして来た。


「その貴族家というのは?」


「この町の町長を務めている男爵家です...」


 やっぱりか...そうだと思ったよ...


 チラッとフローラさんの方を見ると、あからさまにイヤそうな顔をしている。まぁそれも無理ないか。


 ここまで件の男爵家が色々な所に絡んでいるなんて思ってもみなかっただろうからね。


 しかしこれはちょっと厄介なことになりそうだな...


 私は面倒事に巻き込まれそうな予感をヒシヒシと感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る