第278話 商売敵
取り敢えず私は、チラッと周りを見渡して誰も見ていないことを確認してから、自分の尋ね人広告をそっと剥がして亜空間へ放り込んだ。
フゥ...やれやれ...これで一安心...ってな訳にゃいかないな...恐らく全ギルドに出回っているんだろうし...
参ったな...私のことを探し回ってるのは知ってたけど、まさかこんな手を使って来るなんてな...
止めて欲しいな...今更会ったってお互い気不味い思いするだけじゃん? あの人達はもう一度私に会って一体どうしたいんだろ?
「カリナさん、手続き終わりました」
「あ、はい。今行きます」
フローラさんに呼ばれたんで、私の思考はそこでいったんSTOPした。
◇◇◇
「すいません、この依頼を受注したいんですが」
私は受付に依頼書を提出した。
「はいは~い! ちょっとお待ち下さいね~!」
受付嬢さんは内職の手を止めてこっちにやって来た。なんで内職だって分かるのかって? そりゃあ分かるよ。だって刺繍してんだもん。よっぽど仕事が無いんだろうな。
「お待たせしました~! こちらの依頼ですね~! ありゃ!? なんかついさっき受付したばっかりの依頼のような気が!?」
「えぇ、その通りです」
フローラさんが私の側に来てそう言った。
「あぁ、あなたでしたか~! いやぁ、こんなに早く受注されて良かったですね~!」
「えぇまぁ...」
フローラさんは苦笑している。
「あの...ちょっと聞いていいですか?」
「はい~! なんなりと~!」
「ここのギルドがこんなにも閑散としているのにはなにか理由があるんですか?」
どうしても訳が知りたくなった私は、気付けばそう受付嬢さんに尋ねていた。
「...あぁ、やっぱり気になりますよね...」
すると、今まで高かった受付嬢さんのテンションがダダ下がりした。語尾を伸ばさなくなってしまった。
「実は商売敵が現れましてね...」
「商売敵!?」
「えぇ、その名も『何でも屋』っていうんです...」
「...『何でも屋』...つまりは便利屋みたいなものですか?」
「そんな感じです...その『何でも屋』の業務内容は多岐に渡り、ゴミ拾いなどの清掃業務から始まって行方不明者の捜索や要人警護、果ては魔物の討伐まで...」
「えっ!? それって...」
「はい、ギルドの業務内容とモロ被りなんです...しかも向こうはギルドを通していませんから、手数料が発生しません...つまり格安なんです...」
通常、ギルドを通しての依頼にはどんな仕事であっても手数料が発生する。それがギルドの収入になると同時に依頼者に対する保険ともなる。ちゃんとギルドが認めた依頼ということになり、それは受注する冒険者に対する枷ともなるのだ。
つまりもし、受注した冒険者が依頼を疎かにしたりなんてしたら、ギルドの顔を潰すことに繋がる。ヘタすりゃ冒険者資格を剥奪される。なので、迂闊な真似が出来ないという抑止力ともなりえるのだ。
その手数料が発生しないということは、なるほど格安になって当たり前である。
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