第271話 逡巡

 上空ではステラがこちらも涙に霞む目を堪えながら、必死にカリナの姿を探し求めていた。


 自分はなんて恩知らずなことを言ってしまったんだろう...命の恩人であるカリナに対してとんでもなく失礼なことを言ってしまった...


 悔やんでも悔やみ切れない。後悔の念は、後から後から流れ出る涙と共にどんどん膨れ上がって行った。


 思えばこれまでカリナが言って来たことは、一貫してパーティーのためを思ってのことばっかりだった。どうすればこのパーティーがより良くなるのか、それだけを日々考えていたのだ。


 それなのに...自分達はそんなカリナの気持ちを理解しようとせず、自分達の欲求のみを通そうとした。そりゃカリナに愛想を尽かされて当然だろう。


 今更関係を修復するのは難しいかも知れない。だがそれは仕方ない。自分達が選んだ道なのだから。

 

 でも...それでも...カリナにもう一度会ってちゃんと謝りたい。こんな形でお別れなんてしたくない。だからこそカリナの姿を必死に追い求める。ステラは目を凝らしながら王都の上空を飛び続けた。



◇◇◇



 一方その頃、アスカとラウムは冒険者ギルドに向かっていた。もしかしたら、カリナが立ち寄っているかも知れないと一縷の望みを賭けたのだ。


「カリナさんですか? いえ、今日はお見掛けしておりませんね」


「そうですか...ありがとうございます...」


 受付嬢の言葉にアスカは落胆した。


「カリナ? いいや、今日は見てないな」


「そうか...ありがとう...」


 知り合いの冒険者仲間に聞いて回っていたラウムの方も収穫はなかった。となると残るのは...


「アスカ、馬車のレンタル業者の所に行ってみよう。もしかしたらカリナはこのまま王都を出るつもりかも知れない」


「分かりました」


 二人は冒険者ギルドを出て馬車のレンタル業者の所へ急いだ。



◇◇◇



 ラウムの読みは当たっていた。カリナは王都を出るつもりで最初は馬車のレンタル業者の所に行こうと思っていたのだが、直前で方針を変更した。足が付くと思ったからだ。


 カリナは連絡馬車の乗り合い所に来ていた。さて、どこに行こうか...真っ先に浮かんだのはイアンの所だ。なんだか無性にイアンの顔が見たくなった。だがそれは良くないことだと思い直した。


 自分からフッておいて、都合の良い時だけ頼るなんて人として間違っているだろう。


 それにもし今イアンの顔を見たら、自分は間違いなく泣いてしまう。優しいイアンはきっと慰めてくれるだろうが、それはイアンの優しさに甘えているだけになってしまうし、イアンほどの人なら既に新しい恋人が居るかも知れない。


 そんな所に押し掛けたら迷惑を掛けることにもなってしまうだろう。それだけは避けたかった。


 もう一人、ルキノに亜空間シールドを掛けた時にアクセルのことも頭に浮かんだのだが、こちらはもっと論外だろうと思って考えるのを止めた。


 今更どの面下げて戻れるというのか...

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