第272話 鉱山都市ビエン
「さてと...どこ行きの馬車に乗ろうかな...」
私は連絡馬車の乗り合い所で悩んでいた。故郷である領都ベガルに行くのだけは論外だ。間違いなく真っ先に探しに来るだろうから。
なにせさっきから、王都の上空をデッカい鳥が飛び回っていて話題になっているからね。みんな物珍しそうに上空を指差したりしているし。
ステラさん、目立ち過ぎじゃない? 私を探してるんだろうけど、完全に逆効果だよ? 亜空間に隠れるまでもなく、ちょっとした軒下のような所に隠れるだけでも上から見えないじゃんね? ご苦労様でした。
「南へ行けば故郷だから逆の北に行こうかなぁ」
そういえば、逃亡者は北の方角に逃げる傾向があるってなんかで読んだっけ。いやいや、私はなにか罪を犯して逃げてるって訳じゃないけどね!
「北行きだと...鉱山都市ビエンって所が有名っていうかここら辺じゃ一番大きな町なんだね」
乗り合い所に置いてあった旅行案内のパンフレットを見ながら、私は思案に暮れていた。
「鉱山都市ってなんかちょっとワクワクする響きだな。他に行きたい場所も無いしここに決めるか」
ということで、行き先は北の方角にある鉱山都市ビエンに決まった。早速馬車に乗り込む。
さようなら王都。さようなら皆さん。どうかお元気で。
◇◇◇
王都から馬車で約三日。鉱山都市ビエンに到着した。
「おぉ~! これが鉱山都市かぁ~! なんかイメージした通りの光景が広がってるなぁ~! 感動しちゃうなぁ~!」
私はお上りさんよろしく、初めて訪れた鉱山都市の風情に感激していた。金や銀、更にダイヤモンドの鉱山まであるというビエンの町は至る所から煙が立ち上ぼり、至る所からトンカントンカンっと鍛冶屋がハンマーを振るう音が響き渡っている。
これぞまさしく鉱山の町といった佇まいである。
「さてと、まずは宿を取らないとね」
パーティーホームを手に入れて以来、ホテルに泊まることがなくなった私は、逆にちょっと新鮮な気分を感じていたりした。
そしてちょっとだけ寂しくなった。ここ最近はパーティーホームに帰ることが当たり前になっていたから...特に二番目のパーティーホームにはあまり長いこと住めなかった。それだけが少し心残りではある。
金に困ってる訳じゃないから惜しいとかって気持ちは特に無いが、もうちょっと家族ごっこを楽しんでいたかったという思いは確かに残っていた。
こんなんじゃいかんな...しっかりしないと...もう一人っきりなんだから...また一人になっちゃったんだから...
私は頭を振って意識を切り替え、どのホテルが良いか物色し始めた。
そんな時だった。
「ムグッ! い、イヤァッ~! た、助けて! だ、誰か、誰か助けてぇ~!」
そんなくぐもったような女の人の悲鳴が町の裏通りの方から聞こえて来た。穏やかじゃないな。なにか事件か?
私は急いで声のする方に駆けて行った。
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