第269話 後悔

 カリナが突然目の前から消えた瞬間、残された四人はしばし呆然として固まっていた。


 やがて一番早く我に返ったセリカは、その場に踞って泣きながら叫んだ。


「そ、そんな! ま、待って! 待って下さい! カリナさん! お願いだから行かないでぇ~!」


 次に我に返ったステラは焦ったように叫んだ。


「か、カリナさん! ちょ、ちょっと待って下さい! もう一度! もう一度ちゃんと話し合いましょう!」


「そ、そうだぞ! カリナ! 頼むから早まらないでくれ!」


 慌ててラウムも続いた。


「あぁ、なんてこと...私があんなことを言ったばっかりに...カリナさん、本当にごめんなさい...」


 アスカはその場に崩れ落ちてしまった。


 四人がそれぞれの思いを口している中、一番早く動いたのはセリカだった。やおら立ち上がると、カリナの部屋へと急いだ。もしかしたら私物を収納しているかも知れないと思ったからだ。


「カリナさん!」


 だが部屋は無人だった。しかも備え付けのベッドやタンスなどの家具の他に、カリナの私物らしき物が一切見当たらない。


 セリカもカリナと同じ空間魔法使いである以上、本当に大事な物は自分の空間に収納しているが、日常品の細々とした物はさすがにわざわざ収納したりはしない。出し入れするのが面倒だからだ。


 だがカリナのこの部屋には、そういった日常品すら存在していない。そう、まるで今日起きることを予見でもしていたかのように。


 これ実は単にカリナのクセみたいなもんで、出掛ける時には常に私物を全て亜空間に収納していただけなのだが、そんなことを知らないセリカは深読みしてしまっていた。


「そ、そんな...カリナさん...」


 セリカは呆然と立ち尽くすのみだった。カリナに誘われ二人で『エリアーズ』を結成した時の様子が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。


 役立たずと罵られ、以前のパーティーから追放された自分を温かく迎えてくれたカリナ。同じ空間魔法使いとして、自分の中の様々な可能性を教えてくれたカリナ。ポンコツな自分を見捨てないでいてくれたカリナ。


 そんな恩人とも言うべきカリナに対し、自分はなんて酷いことを...自分が真っ先にカリナの味方に付くべきだったのにそうしなかった。ただただ傍観していただけ。流れに身を任せていただけ。これじゃ恩を仇で返すようなものだ。


「ごめんなさい...カリナさん...ごめんなさい...」


 また止めどなく流れ落ちる涙を拭うこともせず、セリカはずっとカリナに謝り続けていた。

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