第266話 説得

「アスカさん、皆まで言わなくてもいいです。危険な仕事は出来れば避けたいってことですよね? 皆さんも同意見ってことでよろしいですか?」


 私がそう言うと、全員が決まり悪そうに頷いた。


「皆さんのお気持ちは良く分かりました。ですが、残念ながら私達はそういったぬるま湯に浸るような生活にはもう戻れないんですよ?」


「えっ!? そ、それってどういう...」


「冒険者のリーダー的存在であるアレックスさん、そして王国の騎士団長であるグレンさんから『次なにかあったらまたヨロシクな』と言われてしまいましたからね。今回のような強敵がまた現れた場合、真っ先に私達に白羽の矢が立つことになるでしょう」


「ひっ...」


 誰かの息を呑む声がした。


「そういった場合に備え、常日頃から厳しい環境に身を置く必要があると思っています。いきなりぬるま湯から戦場に行きたくはないでしょう? 常にある程度は心構えをしておかないと、いざっていう時に動けなくなったりしますよ?」


「......」


 みんな黙り込んだままだよ...う~ん...まだ足りないか...奮起を促すにはどうしたらいいのかな...


「あ、あのぅ...」


 その時、控え目にステラさんが手を上げた。


「言い辛いんですが...その...最終的にはカリナさんが亜空間に閉じ込めてしまえば、どんな敵でも怖くないかな...なんて...」


 あぁ、そういうことか。最後は私におんぶに抱っこってことね。だからぬるま湯生活でも問題無いと。そっかそっか。


 ふ・ざ・け・ん・な・よ!


「ステラさん、私は対象に手を触れないと、生きてるものは亜空間に放り込めないってことはご存知ですよね? 今回は地竜だったからまだ良かったものの、これが火竜だったらどうします? 私が側に寄れない程の高温攻撃をして来たら?」


「そ、それは...」


「あるいは空竜でも水竜でもいいですよ? 空を飛べない、金槌で泳げない私は対象に近付くことすら出来ませんが? その時はどうします?」


「......」


「更に言えば、既に死んでいるアンデッドは亜空間に放り込んでも倒せませんよ? ダンジョンで遭ったリッチを覚えてるでしょ? 命懸けで倒すことになったのはそういう理由です。いいですか? 亜空間は決して万能って訳じゃないんです。そこんとこ勘違いして貰っては困りますよ?」


「......」


 みんなは黙り込んだままだが、どことなく居心地悪そうにしている。お互いに目を合わせては気まずそうにしているもんね。


 納得するまであと一歩ってところかな?

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