第265話 弱気の虫

「フゥ...全員終わりましたね? 数は合ってましたか?」


 全員が頷いたので、


「それじゃあ金貨を仕舞って帰りましょうか」


 私はさっさと袋に金貨を詰め始めたのだが、


「あの、すいません...カリナさん、また私の分も収納して貰っていいですか?」


 ステラさんがそう言って来た。このやり取りもデジャヴ感があるね。


「えぇ、構いませんよ。後で銀行に寄りましょう」


「ありがとうございます」


「えっと...今のはどういう意味ですか!?」


 そんな私とステラさんのやり取りを、不思議そうな面持ちで眺めていたアスカさんが聞いて来た。


「あぁ、それはですね...」


 私とステラさんは以前のやり取りを説明した。


「カリナさん、それなら私の分もお願いします」


「私の分も頼む」


 アスカさんとラウムさんまで頼んで来た。


「別に構いませんが、なんで誰もセリカさんには頼まないんですか? 要領は同じですよ?」


「あ、言われてみれば確かに...でも...ねぇ?」


「そうそう...なんとなくカリナの方が安心出来る感じ?」


 をいをい...そんなこと言ったらセリカさんが可哀想じゃんか...今は苦笑してるだけだけど内心はきっと傷付いてるんじゃないか?


 私はジト目でお二人を眺める。私の視線の意味に気付いたお二人は慌てて、


「せ、セリカさん! す、すいません! 他意は無いんです! 本音が駄々漏れしただけで...あっ!」


「す、済まん、セリカ! ついポロッと本音が...あっ!」


 ...アンタらわざとやってないか? セリカさん、こめかみに立てた青筋がピクピクしちゃってるじゃん...


「いえいえ、お気になさらず...」


 セリカさんの良い笑顔が怖いよ~...



◇◇◇



 その後、銀行に寄って三人分の金貨を預けてからパーティーホームに帰った。


「さて、それじゃあ改めて今後の予定を決めましょうか?」


『......』


 うん? なんかみんなの反応が鈍いな?


「皆さん、どうかしました?」


 すると四人を代表する形でおずおずとアスカさんが語り出す。


「あのぅ...カリナさん、その...ですね...」


 なんかめっちゃ歯切れが悪いアスカさんを見て私はピーンと来た。これはあれだな。以前、ステラさんとセリカさんの時にもあった、弱気の虫が騒ぎ出したってことなんだろうな。


 ステラさんとセリカさんが目を伏せている所を見るに、どうやら間違いない無さそうだね。


 冒険よりも安定を望む。危険な仕事は出来ればやりたくない。その気持ちは分からんでも無いが、私達の立場的にどうもそれは難しそうなんだよね。


 さてさて、どう説得したもんやら...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る