第110話 両手に花?

 イレーナ達の処遇はイアン様にお任せして、私とクリス様は帰ることにした。


 イアン様は名残惜しそうだったが、クリス様のご家族が心配していらっしゃるだろうから。


「なぁ、カリナ。もし良かったら、我が領地を拠点にして冒険者活動することにしないか? そうすれば仕事を世話することも出来るし...簡単に会えるし...」


 最後の方は良く聞こえなかったけど、私のことを心配してくれているんだという気持ちは伝わった。だけど...


「イアン様、ありがとうございます。でも私は、護衛という仕事の特性故ずっと一ヶ所に留まるつもりはないんです。なので拠点を構える気はありません。ご理解下さい」


「そうか...だったらせめて我が領地に仕事で来た時には、僕に連絡をしてくれないだろうか? 一目だけでも君に会いたいんだ」


「分かりました。その時はご連絡します」


「約束だよ」


 最後にイアン様は私の手をギュッと握った。



◇◇◇



「カリナさん、本当にありがとうございました」


「あぁ、いえいえ。仕事ですので。クリス様がお幸せになれるお手伝いが出来て私も嬉しいですよ」


「それもカリナさんのお陰です。本当になんて御礼をすれば良いのやら...」


「クリス様が笑顔で居て下さるだけで十分ですよ?」


「か、カリナさんったら...」


 うん? クリス様のお顔が茹で蛸みたいに真っ赤なんだけど? どうしたのかな?


 その後は何事もなく過ぎ、クリス様の実家がある町に帰って来た。


「ちょっと冒険者ギルドに寄って護衛任務完了の報告をして来ますね」


 私は冒険者ギルドの前で馬車を止めて貰い、降りようとしたのだが、


「あっ! 私も一緒に行きます! お恥ずかしい話ながら、まだお金を払ってなくて...」


 クリス様がモジモジしながらそう言った。なるほど。そういやお金に困ってたんだよね。イアン様にお借りしたらしい。 


 そういう訳で一緒ギルドに入ると、


「カリナさん! あぁ、良かった! やっとお会い出来た!」


 マリス様が駆け寄って来た。


「マリス様! お久し振りです!」


 そう言ってマリス様に近寄ろうとした私の服の袖を、クリス様がチョンチョンと引っ張って止める。


「...カリナさん、どなたですか?」


 なんだろう!? 心無しかクリス様の声がいつもより低いような!?


「...あら、カリナさん。そちらはどなた?」


 なんだろう!? マリス様の声もいつもより低いような!?


「え~と...クリス様、こちらはマリス様です。以前に護衛任務で付いた方です。マリス様、こちらはクリス様です。今回の護衛任務をご依頼された方です」


「「 ふうん... 」」


 なんだろう!? お二人がなんだか睨み合ってるような!?


「そうなんですね。カリナさん、お疲れ様でした。今日は私が労を労って差し上げますわね」


 グイィッ!


「いえいえお構い無く。カリナさんは私が労いますので」


 グイィッ!


 な、なんなのこの状況!? なんで私、お二人に腕を引っ張られてんの!? しかもお二人とも私の腕に胸を押し付けて来て、なんて柔らかいの...


 じゃなくて! 男ならこの状況を喜ぶのかも知んないけど、女の私にどうしろと!?

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