第108話 密談

 イレーナの所で働くようになった翌日、早速動きがあった。


「お嬢様」


 セバスチャンがやって来てイレーナに何か耳打ちした途端、イレーナの顔が激しく歪んだ。


「あんの役立たずどもが...仕方ないわね...セバスチャン、他にアタリは付けてある?」


「えぇ、何人かは」


「早速手配して頂戴」


「畏まりました」


 そう言ってセバスチャンが出て行った後、イレーナは爪を噛みながらなにやらブツブツと呟いていた。クリス様襲撃失敗の一報が届いて、新しい刺客にコンタクトを取ったということなのだろう。


 こちらの思惑通りである。私は笑みが溢れないよう唇を噛み締めた。



◇◇◇



 その日の夜、


「お嬢様、準備が整いました」


「そう、分かったわ...カリナ、私はこれから出掛けるけど、セバスチャンが護衛をするからあなたはもう休んでいいわよ」


 なるほど...まだ私はそこまで信頼されてないってことか。これから密談をするであろう場所には連れて行けないと。まぁ昨日雇われたばっかりだしね。無理もないか。


「...よろしいのですか!?」


「えぇ、セバスチャンが居れば心配ないわ」


「...分かりました」


 と、引き下がったフリをして部屋を出てからすぐに亜空間へと潜む。するとフードを目深に被ったイレーナとセバスチャンが部屋から出て来た。


 私はそっと後を尾ける。ヤツらは馬車で移動するようだ。私は馬車の屋根に登った。馬車はスラム街のような寂れた場所に向かっている。


 やがて馬車は一軒の朽ち始めた空き家の前で止まった。密談するにはもってこいの場所だろう。真っ暗なのでセバスチャンがカンテラに火を灯し先導する。


 空き家の中に入って行く二人の後に付いて、私もコッソリと中に入った。


「遅かったな」


 中で待っていたのは、如何にも破落戸といった風体の薄汚れた男だった。


「私も色々と忙しいのよ」


 イレーナが素っ気なく答える。


「それで!? ターゲットは!?」


「この女よ。名前はクリス・エバートン。男爵家の娘よ」


 イレーナがクリス様の絵姿を男に見せる。


「お貴族様か。うっひょう! 良い女じゃねぇか! 堪んねぇな! で!? どうすりゃいいんだ!? 殺せばいいのか!?」


「そこまでは望んでないわ。傷物にしてくれるだけでいい。その後は好きにして構わないわ」


「へへへっ! そうかい! そりゃ楽しみだ!」


「前金でこれだけ払うわ。残りは成功報酬よ」 


「毎度ありぃ! これだけ貰えりゃ張り切ってやるぜい!」


「お願いね」


 そろそろいいかな? コイツらの有罪が確定したしね。


 さぁでは捕縛と行きますか!

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