第97話 初任務終了
その後、マリス様は何事もなかったかのように、平然と領主としての引き継ぎを行っていた。
本当は辛くて辛くて泣き出したいところだろうに、それを心の奥底にしまい込んで毅然と領主としての責務を熟す様は、端で見ていて本当に立派だなと思った。
結局それから三日間、マリス様は領主の仕事に忙殺されていた。その間、カスパー男爵と賊の一人...いやもう賊二人でいいか...は、ずっと亜空間に閉じ込めておいた。
死なれても困るので、日に一食と水だけ与えて放置しといた。いい具合に弱っている頃だろう。良い気味だ。プークスクス♪
そして本日、全ての引き継ぎを終えて帰宅することになった。
「カリナさん、長い間お引き留めして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、仕事ですからお気遣いなく」
「ありがとうございます。帰路もよろしくお願いします」
「お任せ下さい」
帰りはちゃんと馬車で帰る...って、行きも途中までは馬車だったんだけどね...馬車が動き出してからやっと、マリス様は大きなため息を吐いた。だから私はそっとハンカチを差し出したんだ。
「はいこれ、マリス様」
「えっ!? カリナさん!?」
「...もう我慢しなくて良いと思いますよ...」
私がそう言った途端、マリス様の瞳から止めどなく涙が溢れ、
「うえぇぇぇん!」
子供のように慟哭するマリス様を、私はしっかりと抱き締めてあげたのだった。
◇◇◇
帰路は何事も無く無事に家まで辿り着いた。
「マリス様、お疲れ様でした」
「カリナさん、本当にお世話になりました。カリナさんが居なかったらどうなっていたことやら...」
「いえいえ、仕事ですから。ところでこれから代官様に罪人を引き渡すんですよね?」
「はい、仮にも貴族が絡んだ犯罪ですから、代官様に引き渡して処遇を決定して貰います。死罪以外有り得ませんけど」
うん、私もそう思うよ。
「そうですか。ではここでお別れです」
「えっ!? 代官様の所へ一緒に行ってくれるのではないのですか?」
「申し訳ありません。ちょっと色々ありまして...代官様とは顔を合わしたく無いと言いますか...なので衛兵を呼んで下さい。罪人を引き渡しますので」
まぁ代官が私の顔を知ってるはずはないと思うけど、一応念のためにね。察して下さいな。
「そうですか...分かりました...あの...またお会い出来ますか?」
「護衛任務中でなければ。しばらくはこの町に居ると思います。ギルドに来て貰えば会えると思いますよ」
「分かりました。本当にありがとうございました」
こうして祖国での護衛初任務は終了した。
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