「馬車から馬を外して、馬に乗って行きましょう。幸い二頭立てですから一頭ずつ乗れますし」

　マリス様がそう提案する。うん、その方法が一番良さそうだね。ただ問題は...

「す、すいません...私、馬に乗れないんです...」

　そう、冒険者としては恥ずかしながら、私は一人で馬に乗ったことないんだよね...御者の練習はしてたけど、馬はこれから習うところだったんだよ..

「そうなんですね。それじゃあ一頭に二人乗りして、もう一頭は空馬にして付いて来させることにしましょう。馬が疲れて来たら交替するってことで」

「すいません、よろしくお願いします...」

「あっ!　あの...捕まえた男の人はどうします?」　

「あぁ、それなら心配要りません。亜空間に入れたままにしますので」

　バインドロープで拘束してあるからね。

「な、なるほど。分かりました。では参りましょうか」

　その後、私はマリス様の後ろに乗せてもらいながら、馬を扱う手解きを簡単に受けた。ありがたかった。

　それから、黒幕である婚約者のこともある程度聞いた。マリス様は話すの辛そうだったけどね。無理もないけど...

　婚約の話は向こうから言って来たものらしい。会ってみてお互いに気に入ったのと、同じ男爵家同士ということもあり、婚約自体は割とスムーズに運んだんだとか。

「でも今思うと...あちらはヤケに結婚を急いでいるような節がありましたね...事業に失敗して困窮していたそうでして...ウチと縁を結ぶことで援助して貰えると...そのことをアテにしているような空気は確かに感じていました.. 」

　あぁ、良く有りがちな話だよねぇ。援助して貰うだけじゃ飽き足らず、家の乗っ取りを画策したって訳だ...うん?　待てよ?　ひょっとしたら...

「あ、あの...マリス様、差し出がましいようですが...マリス様のご両親の件について、もう一度調べ直した方がよろしいかと...」

「ま、まさかそんな...そこまで...」

　うん、信じたくない気持ちは良く分かるけど...でもさ、とてもじゃないけど偶然とは思えないタイミングなんだよね...

　そこで私は、馬が疲れて来て休憩を入れる時間になったら、もう一度あの男を尋問してみることにした。

　こういった汚れ仕事を依頼するのに、そうそう何人もは雇わないだろうと思ったからだ。雇う人数が増えればそれだけ情報が漏れるリスクが高くなるし、コストも高く付く。だから使い回しするんじゃないかって思ったんだ。

「あなたにもう一つ聞きたいことがあります。正直に答えてくれますよね?」

「な、なんだよ...」

「盗賊の仕業に見せ掛けて、マリス様のご両親を殺したのはあなた方ですか?」

　男の表情が一変した。顔が真っ青になっている。

「し、知らねぇな...な、何の事だよ...」

　圧着ペンチをカチャカチャと。

「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!　や、止めろ!　しゃ、喋る!　喋るから!　そ、それもカスパー男爵に依頼されたんだ!」

　それを聞いたマリス様が倒れそうになったんで慌てて支えた。

　カスパー男爵、許すまじ!

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