第92話 亜空間を快適に

「あ、あの、カリナさん。差し出がましいようですが...この亜空間? でしたっけ? この場所で火を焚けない理由をお聞きしても?」


 二人して横になって他愛もない話をしていたら、急にマリス様がそんなことを聞いて来た。なんだろう? やっぱり火の通った温かい食べ物を食べたかったのかな?


「あ~...実はですねぇ...この空間、空気はあるんですが対流してないんですわ。だから以前、火を焚いた時は煙くて煙くて大変だったんですよ。それ以来、火は使わないことにしました」

  

 煙い上に匂いまで籠っちゃってね。しばらく臭いままで我慢するしかなかった。

 

「なるほど...そういうことでしたか。だったら炭は如何です?」


「へっ!? 炭ですか!? 炭でも煙は出るんじゃ!?」


「備長炭ならほとんど出ません」


「そうなんですか!?」


 知らなかったよ!


「えぇ、試してみて下さい。ちなみに備長炭はウチの領地の特産品なんです。良質の備長炭をご提供できます。よろしければ差し上げましょうか?」 


「いいんですか!? 是非ともお願いします!」


「えぇ、領地に着いたら差し上げますね」


「ありがとうございます!」


 俄然、護衛の方もやる気が出て来たね! この人を絶対に無事領地まで送り届けよう!



◇◇◇



 翌朝、亜空間から出た私は、真っ先に馬車の扉を確認した。うん、やっぱりね。こじ開けようとした形跡が残ってる。夜中によからぬことを企んでいたようだ。


 私は素知らぬ顔をして、輩どもに朝の挨拶をする。ちなみに用心のため、マリス様は亜空間に居て貰っている。


「...おはようございます...」


「...よう、良く眠れたかい?...」


「...えぇ、お陰様で...」


「...そうかい、そりゃ良かった...」


 微妙に緊張感のある会話を交わす。腹の探り合いってヤツだ。


「...今夜も野宿するようだったら、早目に言って下さいね? 昨夜同様こちらは構わなくて結構ですから...」


 一応、釘だけは刺しておいた。


「...あぁ、分かった...」


 こうして緊張感を孕んだまま、二日目の旅程がスタートした。



◇◇◇



 馬車が動き出すと同時に、私は亜空間へと戻った。


「マリス様、やっぱりあの連中は怪しいです」


「と言いますと?」


「馬車の扉をこじ開けようとした形跡がありました」


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 マリス様が涙目になる。


「落ち着いて下さい。ここに居れば安全です。私が連中の相手をしますから、マリス様はここから動かないで下さい」


「わ、分かりました」


 不安げなマリス様を亜空間に残して、私は馬車に戻った。仕掛けて来るとしたら夜だろう。


 私は警戒を強めた。


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