第91話 初めての亜空間

 三人の輩は火を焚いて野宿の準備を始めている。


 やがて準備が整ったのか、私達に話し掛けて来た。


「お~い! お嬢ちゃん達! 夕食の用意が出来たから降りて来いよ~! 一緒に食おうぜい!」


 私は即座に答える。


「結構です。私達は自分達で用意してありますのでお構い無く」


「なんだよ~! せっかく用意したんだから食ってくれよ~! 火も焚いてるから温かいぜい!」


 しつこい! またも私は即座に答える。


「お気持ちだけで十分です。それでは」


 そう言って私は会話を打ち切る。やっと諦めたようだ。


「あ、あの、カリナさん!? 夕食ってどこに!?」


 マリス様が不安げに聞いてくる。無理もないね。だって私、手ブラだもんね。だから私はマリス様を安心させるように体に触れて、


「マリス様、ちょっと失礼しますね」 


 そう言って私はマリス様を亜空間に引き込んだ。


「えっ!? えぇっ!? な、なにこれ!? なにこれ!? ここどこ!? ここどこなの!?」


 マリス様がパニックに陥った。初めて亜空間に来た人の正しい反応だね。


「落ち着いて下さい。ここは私が魔法で作り上げた亜空間です。私は空間魔法使いなんで、このような亜空間を展開することが出来るんです。ほら、ここから外が見えますから見てみて下さい」


 私は亜空間の一部を可視化して外の様子を見せる。


「凄いですね...私、初めて見ました...」


 マリス様が目を丸くしている。


「でしょうね。希少な魔法ですから。私も他に使える人を見たことありません」


「そうなんですね...」


「私はこの能力のお陰で、護衛任務を失敗したことがありません。信用して頂けましたか?」


「はい! カリナさんにお願いして正解でした!」


 マリス様の目が輝いている。良かった良かった。信じてくれたよ。すると、


「クウ~」

  

 ホッとしたのか、マリス様のお腹が可愛い音を立てた。途端、マリス様のお顔が真っ赤になった。


「夕食にしましょうね」


「はい...」


 私は亜空間に保管しておいた保存の利く食料と水を出した。


「すいません。火が使えないので、こんなものしかないんです」


「い、いえいえ! これで十分です! ありがとうございます!」


 私達は保存食のみの味気ない夕食を済ませた。


「マリス様、今夜はここで休みましょう。あいつらは信用ならないんで、同じ場所で寝るのは危険ですから」


 私はマリス様に、これまた亜空間に保管しておいた毛布を渡しながらそう言った。


「は、はい。カリナさんの言う通りにします」 


「ありがとうございます」


 こうして私達は亜空間で夜を過ごした。

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