第80話 アクセルの後悔

 町の宿屋で落ち合ったイアン様の護衛の二人は、なんと双子のご兄弟だそうな。


 兄弟ということで、さっき別れたカイル様とアラン様のことを思い浮かべ、あぁこういう人達を護衛に選ぶって所も、イアン様とアクセル様ってどことなく似てるよなぁって妙な感慨に浸っていたりした。


「よろしく。兄のケリーだ」


「弟のビリーだ。よろしく頼む」


「カリナと申します。よろしくお願い致します」


「じゃあ出発しようか」


 そう言ってイアン様は馬車の扉を開けてくれた。私に先に乗れってことなんだろうけど、


「すいません、イアン様。私は御者席の方に座りたいと思います」


「えっ!? なんで!?」


「これから冒険者として活動して行く上で、馬の扱いに慣れておく必要があるからです」


「そうか...」


 イアン様があからさまにガッカリした表情を浮かべている。道中、私と積もる話でもしたかったんだろうが、それは旅の間にいくらでも出来るだろうから勘弁して欲しい。


 結局、私とケリー様が御者席、イアン様とビリー様が客席となった。早速、ケリー様に教わりながら、私は馬車をスタートさせる。


 最後に一度だけ振り返りながら、私は王都を後にした。この国に来て僅か2ヶ月余り、色んなことがあって、色んな出会いがあって本当に楽しい毎日だった。


 また戻って来るその日まで、皆さんお元気で!



◇◇◇



 俺は執務室の窓から外を眺める。もうカリナは出発した頃だろうか? そう思うと胸が張り裂けそうになる。


 何がいけなかった? 何を間違えた? カリナは王族になるのが嫌だと言った。それは本心だろうが、俺の求婚を断ったのはそれだけが理由じゃないはずだ。


 そう、俺がヘタに画策したせいだ。昔の男と会わせるのを拒んだ。カリナの気持ちも確認せず、勝手に貴族の座を用意した。カリナを騙して王妃教育を受けさせた。


 これだけ不誠実なことを繰り返していたら、カリナに嫌われるのも当然だ。俺は奥歯を噛み締めながら自責の念に駆られた。時が戻るならやり直したいと切に願った。


「失礼致します。アクセル殿下、国王陛下がお呼びです」


 執事のバルトが入って来てそう告げた。


「...分かった。今行く...」


 これから俺は、カリナのことをとても気に入っていた両親に、酷なことを伝えねばならない。二人ともとても悲しむことだろう。そう思うとますます憂鬱な気分になる。


 兄の起こしたクーデターの後始末という大変な仕事が残っている中、こんなことではいけないと自分を叱咤し、俺は重い足取りで部屋を後にした。


 後悔という二文字を背中に背負いながら...

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