第79話 旅立ち
長い沈黙の後、アクセル様はようやく口を開いた。
「...良く分かった...今は引き下がろう...だが、カリナ。俺は諦めた訳じゃないからな?」
それだけ言ってアクセル様は部屋を出て行ってしまった。残された私達は、
「「 ふぅ~!」」
と、仲良く息を吐き出したのだった。
「...カリナ、本当にこれで良かったのかい? 僕としてはカリナと一緒に居られるのは嬉しいけどさ...」
ややあってイアン様がそう言った。
「いいんです。王族になりたくないのは本心ですから。イアン様、一つお願いがあります。私が帰国するってこと国王陛下には黙っていて貰えませんか? 連れ戻そうとしたけれど失敗したということにして」
「そ、それは...」
うん、分かる。イアン様の立場からしたら、王族にウソを吐くってのはマズいんだろうね。でもこれは私としても譲れないんだ。
「お願いします! もう私は王族と関わりたくないんです!」
あんな我が儘姫の相手なんかしたくないからね!
「し、しかし...」
「ではこう伝えて下さい。私はこの国で養子縁組して、伯爵令嬢という立場になったんで帰ることは出来ないと」
これでどうよ!?
「えっ!? い、いや、いくらなんでも...そんなウソはすぐバレるんじゃ?」
「それはウソじゃないですよ? 私、本当にこの国で貴族に復帰しましたもん」
「ほ、本当なのかい!?」
本当なんだよね。
「はい、今の私の名前はカリナ・フォーサイスです。伯爵令嬢になります」
「そうだったのか...アクセル王子はそこまでして君を...」
「えぇまぁ...ありがたい話ではあるんですが...それが私を囲い込む一環だったとは思いもしませんでしたけど...」
私の意見関係なく勝手に段取りされていたもんね...
「...分かった...なんとか誤魔化してみよう...」
「ありがとうございます!」
ホッと一安心だね!
「すぐに出発しますか?」
「いや、供の者と町の宿で落ち合う予定になっているんだ。僕を心配して付いて来るって言って聞かなかったんだけど、さすがに連れて来る訳にもいかなくてね。宿で待機させている」
「分かりました。着替えるんでちょっと待って下さいね?」
そう言って私は亜空間に潜った。近衛騎士団の騎士服を脱いで、サファリジャケットに迷彩柄のズボンという冒険者スタイルに着替える。
「お待たせしました。行きましょうか」
私は近衛騎士団の詰所でカイル様とアラン様に別れの挨拶をする。
「短い間でしたが本当にお世話になりました。お二方のことは忘れません。ありがとうございました。アクセル様のことをよろしくお願いします。騎士服をお返しします。あとこのレイピアも」
「寂しくなるな...元気でな。そのレイピアは餞別代わりに持って行ってくれ」
カイル様がそう言ってくれたんで、そうさせて貰うことにした。
「カリナ、俺からはこのバインドロープを。これからもしっかりやれ」
アラン様はバインドローブを二本くれた。
「皆さん、お元気で!」
こうして私は王宮を後にした。
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