第77話 カリナの選択

「その...イアン殿の件だが...」


「はい」 


「カリナに教えなかったのは...その...俺の醜いエゴが原因だ...」


「はい!?」


「...怖かったんだ...カリナを失うかも知れないと思うと...元婚約者に会わせたりしたら、カリナに里心が生まれたりするかも知れない、国に帰ると言い出すかも知れない、婚約者と縒を戻すと言い出すかも知れない、そう思うと怖くて言えなかった...済まん...」 


「いや、私に謝られても...謝るんならイアン様に謝って下さいよ」


 相手が違うでしょ。


「そうだな...その通りだ...」


「出しますね?」


 さすがにイアン様が可哀想になって来たし。 


「あっ! 済まん! もうちょっとだけ待ってくれ!」


 まだ何かあるの?


「その...嫉妬もしていたんだ...」


「嫉妬? イアン様に対してですか? なんでまた?」


「カリナを愛してしまったからだ」


「はっ!? えっ!? えぇぇぇっ!?」


 う、ウソでしょ...アクセル様が私を!?


「だから元カレには会わせたくなかったんだ...器の小さい男で申し訳ない...」 


 元カレって...まぁ、ある意味合ってるけど...


「えっと...その...いつからなんですか?」


「初めて会った時からだ。一目惚れってヤツだな」


 そんなに前から!? ビックリだよ!


「もしかして私に貴族の身分を用意してくれたのは...」


「あぁ、いずれは俺と結婚して貰うための土台作りだな」 


 サラッと結婚とか言ってるよ...


「毎日課題と称して私にやらせていたのは...」


「王妃教育の一環だ」


「そうだったんですね...おかしいとは思ってたんですよ...アクセル様の護衛をする上で、周辺各国の要人の名前とか歴史とか経済状況とか覚えて何になるんだろうって...」


 今頃気付いた私も大概だけどね...


「本当は今夜の舞踏会でダンスを踊った後、告白するつもりだったんだ。こんな形の告白になってしまったが、俺の婚約者になって貰えないだろうか?」


「...アクセル様、お答えする前にイアン様を出しても良いでしょうか?」 


 私の中で既に答えは決まっているんだけどね。


「えっ!? そ、それは...」


「イアン様にも是非聞いて貰いたいんです。お願いします」

 

「...分かった...」


「ありがとうございます」


 私は亜空間からイアン様を引っ張り出した。


「イアン様、大変お待たせしました。こちらがアクセル殿下です」


 イアン様はいきなり亜空間から知らない場所に出されて、しかも目の前に他国の王族が居て、かなり混乱しているようだ。無理もないけど。


「えっ!? あ、あの...どうも...」


「イアン様、喜んで下さい! アクセル様が今回の件を不問に付すとおっしゃって下さいました! 国に帰れますよ!」 


「ほ、本当かい!?」


「本当ですよ! アクセル様にお礼を言って下さい!」


「あ、ありがとうございます!」


「あ、あぁ、気にするな...こちらこそ...その...申し訳なかった」 

 

「イアン様! 一緒に国へ帰りましょうね!」


「「 えっ!? 」」


「アクセル様、先程の婚約申し込みの件ですが」


 そこで私はいったん言葉を切って、


「謹んでお断り致します!」

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