第62話 ダンスレッスン アクセルver.

「今日から俺と一緒にダンスレッスンだ」


 王宮主宰の舞踏会まであと一週間を切った頃、俺はカリナにそう言った。

 

「アクセル様と一緒のダンスレッスンですか?」


「あぁ、カリナには当日、俺のパートナーとして一緒に踊って貰う予定だからな。今の内に呼吸を合わせておこうと思ってな」


「はぁ、それは構いませんが、本当に私でいいのでしょうか?」


「それはどういう意味だ?」


「いえ、アクセル様は意中の方と踊らなくていいのかなと」


 いやだから、その意中の女がお前なんだよ。俺はカリナとダンスを踊った後、そのままの勢いでプロポーズするつもりでいる。サプライズだから今言う訳にはいかない。


「...それは気にしなくていい...」


 その時には俺が発注したドレスをカリナに着て貰う。例の俺の瞳の色に合わせた碧色のヤツだ。発注した店のお針子軍団には徹夜作業をさせてしまうが、ボーナス弾むんで勘弁して欲しい。本当なら約3ヶ月掛かるところを、約1ヶ月で仕上げろなんて無理言って本当にスマン。


「そうですか。でも私、しばらく踊ってないんできっとヘタですよ?」 


 まだデビュタント前だしなぁ。実家で冷遇されてたっていうし、踊る機会なんてほとんどなかったんだろう。


「構わない。俺がリードするから」


「足踏んでも怒らないで下さいね?」


 なんだその言い方...めっちゃ可愛いじゃねぇか! 踏め踏めどんどん踏め! 遠慮なんかすんな!



◇◇◇



 やがて始まったダンスレッスン。うん、確かにカリナはヘタっぴだ。だからこそリードし甲斐があるってもんだ。音楽に合わせて未熟なカリナを巧みに操る。 


 カリナは何度も俺の足を踏んでしまうが、その度に謝らなくていいと笑って伝える。その甲斐あってか少しずつカリナのステップも慣れてきたようだ。


 だからちょっと悪戯して密着してみた。カリナの甘い香りと華奢な体を心行くまで堪能する。ムフフ♪ 役得役得♪ カリナがドキドキしているのがこっちにも伝わって来て、なんだか俺もドキドキしている。


 一曲が終わりに近付いた頃、俺の顔は無意識にカリナの唇へと近付き、ほとんどキスするような距離にまで接近した。俺の心臓は今にも破裂しそうな勢いでバクバク言ってる。まだ早いと思いながら自分でも止めることが出来ない。そのままカリナとキスを...ってあれ!? カリナが消えた!?


 俺は唇を突き出したマヌケな格好で亜空間に佇んでいた...


「す、すいません! 無意識に魔法を発動していたようです!」


「無意識!?」


「は、はい...恐らくですが、身の危険を感じたので発動してしまったのではないかと...」


 確かにキスしようとしたよ? それは俺が悪いよ? でもそれって...


「身の危険なんだ...」


 俺は遠い目をして呟く。 


「あぁいえいえ! そういう意味じゃなくてですね、その...経験がないので戸惑ったというかその...」

 

 結局その後は微妙な空気の中、初めてのダンスレッスンは終了した。


 教訓「急いては事を仕損じる」



 

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