第46話 ミネルバの誘い

 イアンの苛立ちはピークに達しようとしていた。


 第2王子のアクセルに面会を申し込んで約3時間。やっと返事が来たと思ったら担当官は「お会いになりません」とだけ告げた。 


 ふざけるなっ! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろっ! と、怒鳴り付けてやりたかったが、ここは隣国。騒ぎを起こすのは得策ではないと判断した。


 それでもカリナに一目会いたいという気持ちは抑えられなかったので、思わず叫んでしまった。


「だったらカリナにだけでも合わせてくれ!」


「カリナと申しますと?」


 担当官が怪訝な表情になる。


「アクセル王子と一緒に居るはずだ!」


「ではその旨をこちらの用紙に再度ご記入いただいて...」


 イアンはもう限界だった。担当官を今まさに怒鳴り付けようとした時だった。


「あの、何かお困りでしたら力になりましょうか?」


 見知らぬ少女が話し掛けて来た。その少女を見るなり、担当官が顔を顰める。 


「ミネルバ嬢。勝手なことをされては困りますな」


 ミネルバ。この少女の名はミネルバというのか。担当官の物言いからすると、あまり良い印象ではないようだが何者なんだ。イアンはミネルバを繁々と見詰めた。

  

「あら? 困ってる方が居るなら助けてあげようと思うのは当然じゃない? 何を神経質になってるのかしら? ねぇ?」


 そう言ってミネルバは担当官には目もくれず、イアンだけを熱い目で見詰めた。この時イアンが思ったのは「胡散臭い」の一言だった。イアンがそんなことを思っているとは露知らず、


「ねぇ、どうかしら? よろしかったら場所を変えてゆっくり私とお話しませんこと?」


 イアンは迷った。この少女を頼っていいのだろうか? 信用できるのだろうか? 


「いえ、しかし初対面の方にご迷惑をお掛けする訳にも...」


「カリナさんにお会いしたいのでしょう? 私、お力になれると思いますわよ?」


 そう言われてイアンの腹は決まった。恐らくだが、正攻法でカリナと会おうと思っても、なんのかんのと理由を付けて断られるかも知れないと思ったからだ。


 この際、多少怪しげではあるが、このミネルバという少女に頼ってみよう。


「分かりました。私はイアン・コリンズと申します。我が家はウインヘルム王国にて侯爵位を賜っております。どうぞお見知り置きを」


「私はミネルバ・ベルザード。ベルザード公爵家の長女ですわ。よろしくお願い致します。イアン様とお呼びしても?」


「えぇ、構いません」


「私のことはミネルバとお呼び下さいませ。では参りましょうか?」


 相手が公爵令嬢ということに驚いたイアンは、ミネルバに誘われるままベルザード家の馬車に乗った。


 その一部始終を見ていた担当官は、すぐにそれをアクセルに報告したのだった。

 




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