第43話 アクセルの画策

「それじゃあ、カリナ。これが今日の分だ」


「あ、はい。分かりました」


 そう言って俺はカリナに書類を渡す。昨日からカリナには、俺の護衛を勤める上で必要な知識だから、しっかりと覚えておくようにと言って、俺が執務室で書類仕事をしている間、隣に机を並べて勉強するよう申し付けている。内容は周辺各国の政治状況や経済状況、王族の動向や人間関係などなど本当に多岐に渡る。


 彼女は気付いているだろうか? それらは護衛に必要な知識などではなく、王子妃になるために必要な知識だということを。



◇◇◇



 最初に狼の襲撃から助けて貰った。それから何度カリナに命を救われたことだろう。もう俺の体はカリナ無しでは生きていけないと思うようになった。


 だからカリナを俺の婚約者にしたいと本気で思った。行く行くはカリナと結婚して朝から晩まで、それこそベッドの中まで一緒に居れたら、これ程心強いことは他に無いだろう。


 そのためには外堀をじっくりと埋めて行く必要がある。知識以外にも貴族としてのマナーやダンスの素養など覚えて貰わねばならないことは沢山ある。


 幸いなことに、家族から冷遇されていたとはいえ伯爵家で生まれ育った以上、最低限の貴族としての嗜みは身に付けていた。食事をする際のマナーやカーテシーする際の姿勢も綺麗だ。


 ダンスも本人は「最近踊ってないから自信が無い」と言っていたが、運動神経は良さそうなので、ちょっと練習すればすぐ上達することだろう。


 ミネルバのお陰で婚約者候補を失くすことが出来た。その点だけはあの女に感謝したい。今後はパートナーが居ないからという名目で、俺のパートナーとして一緒にダンスの練習をして欲しいという大義名分が出来たのだから。


 残る問題はカリナの身分が今は平民だということだろうが、これも解決の目処は立っている。カリナを養子にしても良いと言ってくれた家があったからだ。


 しかもカリナの元の地位と同じ伯爵家だ。家格的にも問題無いだろう。後日、顔合わせしてカリナを気に入って貰えればそれで決まりだ。その点も心配していない。カリナなら間違いなく気に入って貰えるはずだ。


 カリナが成人するまであと5年。長い婚約期間になるが、それまでに妃となるための心構えを持って貰えばそれでいい。教養もゆっくり身に付けて貰えばそれでいい。そのくらい待つことはなんでもない。


 5年経てば俺が20歳でカリナが15歳。ちょうど良い年齢になる。そうしたらすぐに式を挙げる。


 俺はまだ見ぬ未来予想図を心に描いて、一人で悦に入っていた。


 

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