第42話 イアンの苛立ち

 ミネルバが去った後、部屋の中は何とも言えない嫌な空気が漂っていた。


「カリナ...その...済まない...嫌な思いをさせてしまったな...」


「謝らないで下さい。悪いのはミネルバであってアクセル様じゃありません」


「それでもだ。不快な思いを味わわせてしまったのは事実だからな...」


「気にしてませんよ。お気遣いなく」


 ただしばらくは、あのミネルバが最後に見せた鬼のような形相が、脳裏に焼き付いて離れないと思うけどね...へたすりゃトラウマもんだったよ...


「それよりアクセル様の婚約者候補はこれからどうなるんですか? 残った候補者の中から選ぶのか、それともいったん仕切り直すのか?」


「婚約者候補達は解散させる。俺の中で既に婚約者は固まったからな」


「そうなんですね! おめでとうございます!」


「えっ!? あ、あぁ、ありがとう...」


 ん? どうしたんだろ? アクセル様の歯切れが悪いな? 嬉しくないのかな? それにしても婚約者かぁ...ちょっとだけイアン様に会いたくなっちゃったなぁ...そんな我が儘を言える立場じゃないってのは重々分かってはいるんだけどね...


 それにイアン様は隣国に居るんだから、そう簡単に会えるはずもないし...


 この時の私は思ってもいなかった。まさかこの後しばらくしてから、イアン様と再会できる日が来るだなんて...



◇◇◇



 あれから3日、イアンはまだカリナ達が1拍だけした町に居た。カリナの足取りが全く掴めなかったので、どこに向かえばいいのか手掛かりがなかったからだ。


「くそぅ! まだ手掛かりは見付からないのかっ!」


 イアンの苛立ちはピークに達していた。この3日間、町中を手配書片手に探し回ったが、何の手掛かりも見付からない。


 もうこの町でカリナの立ち寄りそうな場所は全て回った。別の町へ行くべきか? でもどこに? 焦りばかりが募りホテルの一室で悶々としていた。


 泊まっているホテルはカリナ達も泊まったホテルなのだから、ホテルの従業員かフロントに聞けば本来ならすぐに手掛かりを掴めたはずである。実際イアンも真っ先にそうした。


 だが王族の暗殺未遂が起こったホテルという醜聞を回避するために、ホテルの支配人が箝口令を敷いたため、従業員達はみんな口を噤んでしまったのだ。


 そのためこうしてイアンは何の情報も掴めずにいる。今日も収穫なしだとすれば、明日からは適当な町に当たりを付けて探すしかないなとイアンが思っていた時だった。 


 聞き込みをしていた護衛の1人が部屋に飛び込んで来た。


「イアン様! 手掛かりを見付かりました!」


「なに!? どこでだ!?」


「武器屋です!」


「武器屋か、盲点だったな...」


 これまでは女性が1人で立ち寄りそうなカフェやレストラン、ブティックやアクセサリー店などを当たってみたが、埒が明かないので捜索範囲を拡大したのだ。


 この武器屋はもちろん、カリナがアクセルにレイピアを買って貰った店である。


「それで!? カリナはどんな様子だった!? どこに向かうと言ってた!?」


「それがですね...男3人と一緒だったそうです...」


「ぬあにぃ~!? どぅわれだぁ!? どぅわれと一緒だったぁ!?」


 イアンは焦りからか口調がおかしくなる。


「そ、それがですね...」


 続いて聞かされた名前に、イアンの目が点になった。

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