第2話 深夜の宝探し

 私が向かった先は元父の執務室だ。


 元々は母の執務室だった。つまり当主の部屋という訳で、歴代の当主の肖像画がズラリと並んでいる。決して元父のような部外者が我が物顔で使っていい部屋じゃない。


 この部屋には隠し扉があり、そこを開けると隠し部屋に入ることが出来る。その部屋には大きな金庫があり、魔力のロックが掛かっている。魔力を編み込んだ特殊な金属で出来ているので、壊して開けることは不可能だ。


 元父...いやもうこの呼び方は止めよう。私の体は100%母の遺伝子で出来ていると思っている。あの男の因子なんて1ミクロンも入っていないと断言する。あの男がしたことは、母の子宮をノックしただけだ。

 

 おっと話が逸れた。要するにあの男もなんとかこの金庫をこじ開けようとしたが、叶わなかったということだ。それも当然で、この金庫は正統な血筋の後継者が発する魔力にしか反応しないようになっている。


 ただし、開けられるようになるのは、私が成人して正統な後継者となる誓いを立ててからだ。今の私では開けることが出来ない。ではなぜ私がここに人目を忍んでやって来たかと言うと、何事にも例外があるからだ。


 先程私は不本意ながら家督放棄の書類にサインした。つまり不幸になった訳だ。母は生前、私の行く末をとても心配していた。あの男の本性を見抜いていたからだ。体の弱い自分が早くに逝くことになった場合、残された私が不幸になることが目に見えていた。


 それが分かっていて離婚に踏み切れなかったのは、あの男の実家が格上の侯爵家だからだ。政略目的の結婚で初めからそこに愛はなかった。それでもなんとか愛そうと努力していたみたいだが、愛人の元へ足繁く通う姿に愛想が尽きたようだ。私と1歳違いの元義妹が存在している時点で推して知るべしである。


 そこで母は一計を案じた。私が不幸になって困った時には、制約に関係なく金庫が開くように細工をしたのだ。今、私は不幸になった。となればこの金庫は当然開くはずだ。私は金庫の取っ手に手を掛けてゆっくりと引いた。


 ギイィィッ...


 やった! 開いた! お母様ありがとう! 私は金庫の中身を見て目を見張る。そこは大量の現金と貴金属類、宝石類で溢れていた。あの男が目の色変えて開けたがった気持ちが良くわかる。あの男が領主代行になってから、我が家は借金まみれだし。良い気味だ。しかし、これだけあれば当分遊んで暮らせるんじゃ? 


 いやいや、それはダメだ! このお宝はいざという時のために残しておかないと! 私は誘惑を振り切って、当初の予定通り動くことにした。


 まずはお宝を全て収納する。バッグに? いやいや、そんな不用心な真似はしない。第一、重過ぎて全部は運べないし。


 私は魔法を発動した。空間魔法。亜空間に物を収納する魔法だ。私はこの魔法を駆使して冒険者になる。そう決めていた。


 

 

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