第3話 さらば母国よ
お宝を全て亜空間に収納した私は、そっと屋敷を抜け出した。
この亜空間には無制限で物を収納できるのでとても便利だ。1度だけ振り返る。生まれ育った屋敷だ。愛着がない訳がない。母と過ごした日々が思い出される。だがもう2度と戻る気はない。心の中で母にお別れを言って、私は暗闇に溶けるように屋敷を後にした。
向かう先は馬車乗り場だ。明日の朝1の馬車に乗ってこの国を離れる必要がある。私が逃げ出したことがバレたら追っ手が掛かるかも知れないからだ。その前に出来るだけ遠くに離れておきたい。
自堕落な生活を送るヤツらは昼近くまで起きないはずだ。私が居ないことに気付いた時にはもう遅い。馬車は走り出した後だ。十分に距離を稼げる。
私は馬車乗り場の待ち合い室で夜を過ごすつもりでいた。ん? こんな夜遅い時間に10歳の子供が1人で居たら目立ってしまうんじゃないかって?
大丈夫。自分で言うのもなんだが、私の見た目はとても10歳には見えない。成長が早かったからだ。同世代の子に比べて頭2つ分くらいは背が高い。胸は年相応だが...と、とにかく、帽子を深く被っていれば顔立の幼さも隠せる。
15、6歳くらいには見えるはずだ。実際に実年齢で呼ばれたことの方が少ないくらいだから。これで悪目立ちしなくて済むはず。
そう思っていた時期が私にもありました...
「いよぅ、姉ちゃん。こんな時間に1人かい?」「俺達と遊ばない?」「良いことしようぜぃ」
迂闊だった。成長したら成長したで、こういう輩を引き寄せることになるのか。私は歯噛みした。ここで騒ぎを起こしたくない。衛兵の世話にでもなったら大変だ。ヘタすりゃ家に戻されてしまう。だから逃げることにした。
亜空間転移発動!
「なぁ!? き、消えた!?」「ウソだろ!? どこ行った!?」「ま、まさか幽霊なんじゃ...」
「「「 ...うわぁっ! 逃げろ~! 」」」
いや、ここに居るんだけどね。一瞬で亜空間に隠れたから、ヤツらにはその場から急に消えたように見えたんだろうな。それこそ幽霊みたいに。まぁ、ある意味私は幽霊みたいなものかな。それはともかくやれやれ、やっと静かになった。
◇◇◇
「ふわぁぁぁっ~」
あぁ~ 良く寝た。結局あの後、また同じような輩に絡まれたら敵わないから、ずっと亜空間で過ごしていた。そろそろ朝1の馬車が出る時間なので、そっと魔法を解いて待ち合い室に戻る。
何食わぬ顔で列に並び、馬車に乗り込む。これでこの国ともお別れだ。私が居なくなったことに気付いたらヤツらは大騒ぎするだろうが、知ったことか。
あとは野となれ山となれ!
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