あとは野となれ山となれ~勘当されて使用人に落とされた伯爵令嬢は虐待される前に逃げ出します
真理亜
第1話 待ちに待った勘当
「カリナ、10歳の誕生日おめでとう! いやぁ、この日を待っていたよ! これでようやくお前を我が伯爵家から勘当できる! 今日からお前は私の子じゃなくなるのだから、私のことを父と呼ぶのも禁止だ! 分かったな!? だが安心しろ、私とて鬼じゃない。これまで養ってやったんだ。多少の情もある。お前を追い出したりはせんよ。ただし! お前は明日から使用人として働くんだ! 今まで育ててやった恩を働いて返せ! いいな!? お前の部屋は屋根裏部屋に移す。分かったら、さっさと移動しろ!」
私、カリナ・ベルトランは10歳の誕生日に実の父親ダレンから勘当を言い渡された。普通の伯爵令嬢だったら嘆き悲しむところだろう。だが私は違った。
『その言葉を待ってました!』
なぜなら私は、もう何年も前からこうなることが分かっていたから。その原因がこれだ。
「まぁまぁ、お可哀想に。いきなりこんなことになって、さぞやお辛いことでしょうが、これも運命だと思って諦めて頂戴ね。あの女の娘に生まれたことを後悔することね。明日からは厳しく躾てあげますから覚悟してね」
私の母をあの女呼ばわりして薄気味悪く笑っているのは、元父の浮気相手である娼婦のベロニカだ。私から見れば元継母にあたる。そしてもう1人、
「キャハハ! お姉さまったら惨めね! 貴族から平民の、それも使用人に落とされるなんて! でも安心して! お姉さまの持ち物は全部私が貰ってあげるから! 伯爵令嬢としての地位と婚約者のイアン様も含めてね! 明日からは奴隷のようにコキ使ってあげるわ! 楽しみ~♪」
母親そっくりの顔で醜悪な笑みを浮かべているのは、元義妹にあたる1歳違いのダリヤだ。
3年前、私の最愛の母であるマリナが儚くなった。その僅か1ヶ月後にこの恥知らずな元父は、愛人とその連れ子を屋敷に引き入れた。
以降、私は虐待こそされなかったものの、居ない者として扱われた。全ては今日という日を無事迎えるためである。それまでに児童虐待などの醜聞を回避する必要があったからだ。
この国では成人と認められるのは15歳からだが、勤労自体は10歳から認められている。つまり10歳になれば権利が派生するのだ。
私の場合で言えば、我がベルトラン伯爵家の家督を継ぐ権利が派生する。元々、伯爵家の正統な血筋を引くのは私の母で、元父は入婿であるから相続権を持たない。私が正統な相続権を持つ後継者なのだ。
ただし、実際に権利を執行できるようになるのは、成人してからである。それまでは後見人が付いてサポートすることになっている。
その後見人が元父にあたる訳だが、さてここで問題です。私から相続権を取り上げるにはどうしたら良いでしょうか?
答えは簡単、私が自発的に相続権を放棄するか、あるいは後見人の目から見て、後継者に相応しくないと判断されるか、その2つである。
もうお分かりの通り、このロクデナシどもは後者を選んだ訳で。こうして私は何の落ち度もないのに勘当され、後継者失格のレッテルを貼られた訳である。
ヤツらが私のことを虐待したくて堪らないのに、ずっと我慢して来たのはこのためでもある。もし私を虐待していることが外に漏れたら、後見人として失格の烙印を押され、この家から追い出されるハメになるからだ。
私の婚約者であるイアンは侯爵家の子息なので、もしバレたらただでは済まないだろう。だからヤツらは私に手を出せなかった。今日までは。
先程、魔力契約による家督放棄の書類にサインさせられた。偽造防止のため魔力を使って契約した書類は、1度サインしたら取り消しは利かない。つまり私はもう後継者ではない。貴族でもない。
明日からヤツらは嬉々として私を虐待することだろう。だがそうは問屋が卸さない。私だってずっとこの時を待ってたんだ。ヤツらの好きにさせてなるもんか!
私は深夜、こっそりと屋根裏部屋を抜け出し、ある場所に向かった。
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