第2話 見てくれるゥ✨🤗✨💕

 美少女の亜蘭アランとの出会いは、春休みに入ってすぐの事だった。



 毎年、学校が長期休暇の春休みや夏休みに入ると、何人かがアニメスタジオへ見学にやって来る。


 アニメヲタクの中には、有名なアニメーターに憧れて会いに来る者もいるくらいだ。



 かつてはウチのアニメスタジオにも有能で人気のあるアニメーターがいた。



 キャラクターデザインや作画監督を任されるような有能なアニメーターだ。


 だが、そう言うアニメーターは大手のスタジオへ引き抜きにあう。

 


 もちろん基本、アニメーターは契約社員だ。

 腕が良ければ、それだけ拘束料がはずむ。

 

 名前の売れたアニメーターなら制作デスクやプロデューサーが動き、スカウトに乗り出す。

 当然だが監督、演出、シナリオライターも同様だろう。

 フリーで腕の確かな演出家、脚本家は引く手あまただ。

 


 例えば、かつて宇宙戦艦ヤ○トの劇場版『さらば宇宙戦艦ヤ○ト』では、メカシーンを担当したアニメーターの金○伊介氏を月、百万円で招いたと言う。


 今の貨幣価値だと、ひと月で百三十万円くらいだろうか。

 おそらく豪腕プロデューサー、西○義展氏が招聘しょうへいしたのだろう。

 


 金○氏が担当したシーンは白色彗星帝国へ戦闘機コスモタ○ガーが突っ込む有名なシーンだ。


 誰が見ても違いが解かる。

 その前後のシーンだけメカが派手な動きアクションをしている。



 ちなみに金○伊介氏の前のコスモタ○ガーによる戦闘シーンを担当したのは友永氏で、のちに、『ル○ン三世』の監督などを担当している。



 おそらく巨匠、宮○駿監督がもっとも信頼を寄せるアニメーターのひとりだ。



 『ル○ン三世カリオスト○の城』では冒頭のカーチェイスのシーンの原画を担当した。


 ル○ンがフィアットで拉致されそうなクラリスを追跡し、銃撃戦を交えたカーチェイスで奪還するシーンだ。



 『カリオスト○の城』も放映当初は、海外の評論家からは不評だったと言う噂だ。



 しかし、その後、スピ○バーグやルー○スなどソウソウたる名監督が絶賛したことから宮○駿監督の名前も急上昇した。



 のちに映画『も○のけ姫』、『千と千尋○神隠し』等でア○デミー賞を受賞したのは快挙と言えるだろう。




 しかしアニメーターも、いつまでも趣味でやっているワケにはいかない。


 契約金や拘束料などが高い方へ腕の良いアニメーターが集まるのは必至だろう。

 


 またアニメーターも有能ならば、自分の好きな作品や監督の元で腕を振るいたいモノだ。

 




 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚





 西武新宿線田無タムシ駅から徒歩3分あまりのマンションの一室にアニメスタジオ『ジャスティスナイト』があった。



 なぜか、アニメスタジオは西武線沿線に多い。


 僕の実家からアニメスタジオ『ジャスティスナイト』までは自転車で三分も掛からない。


 本当なら歩いた方が運動不足解消には良いのだが、つい自転車を使い楽をしてしまう。



 夜も十二時を回ったので帰ろうと自転車を止めてあるマンションの駐輪場へ向かった。


 夜も更けたと言うのに、かなり暖かい。

 もう桜も咲いて、お花見のシーズンだ。

 

 だが僕は酒が飲めないので、お花見などまったく興味はない。

 アイドルを見ている方がずっとテンションが上がる。



 今夜は大好きなアイドルの乃○坂46が歌番組に出演している。


 留守録してあるので早く帰宅して観たい。

 


 自転車のカギを開け駐輪場から出そうとすると、突然。


「ねえェ……」

 不意に、暗がりから女子に声を掛けられビックリした。



「なッ、なァ〜……😳💦」

 声がひっくり返ってしまった。持っていた自転車のハンドルを離してしまいそうだ。

「ゴッホン……」慌てて、ひとつ咳払いをした。

 


「ねえェ……、アニメスタジオのアニメーター?」

 暗がりから制服を着た美少女が近づいてきた。ツインテールの可愛らしい女の子だ。


 仄かに甘い匂いが漂ってくる。



「え、あァ……、そうだけど」

 スゴく可愛らしい女の子なのでドキドキしてしまった。パンツが見えそうなくらい丈の短いミニスカートを穿いている。



 ショルダータイプのスクールバッグを肩から掛けていた。

 どう見ても女子中学生か、女子高生だ。

 まるで家出少女のようだ。


 こんな夜遅くにスタジオ見学はないだろう。



「ここ、アニメーター募集してるゥ?」

 美少女はチラッとマンションを見上げた。

 アニメーター志望の女子なのだろうか。



「あァ……、まァ、募集はしてるけど……」

 若手のアニメーターは、どこのアニメスタジオも慢性的に人員不足だ。

 なにしろ給料が安い。


 たいていのアニメスタジオは、若手のアニメーターは基本給プラス歩合だ。


 だが、二十代の若手アニメーターの平均年収は百十万円と言われている。

 月に十万いかない。

 生活保護世帯よりもずっと安い賃金だ。



 例えばモブシーンと言う大勢が動くシーンなどはアニメーター、特に動画マンに取っては地獄だ。



 動画一枚に何時間も掛かる。

 それが何十枚とあるのだ。



 一枚の動画の単価は二百円前後だ。

 大変なシーンだから単価が高いワケではない。一時間、掛けて一枚。


 時給たったの二百円に満たないのでは続かないのも無理はない。


 しかも労働時間が異常に長く完全にブラック企業だ。


 最初は新人アニメーターも好きで始めたとしても、あまりにも待遇が悪く次々と辞めていく。

 


「ねえェ、ここ入社テストあるの?」

「え……、まァ、そうだね。

 基本的なデッサンくらいかな」

 動きのある絵を描かせれば、ある程度の実力は解かる。



「私の絵、見てくれる」ショルダーバッグからスケッチブックを取り出した。



「いやァ……、僕は入社テストには関係ないから、社長に見て貰えば……、ッて、キミ」



「あァ、私、亜蘭アラン!!」

「アラン……?!」


「そォ……、神崎 亜蘭アラン!!

 宜しくねェ……」

 いきなり僕に抱きついてきた。ハグだ。



「えェ……😳💦」

 生まれて初めて女の子に抱きつかれてドキッとした。

 柔らかな胸の膨らみが僕の胸板へ押しつけられた。






 これが僕と美少女 亜蘭アランのファーストコンタクトだった。









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