第4話 帰路

それにしても驚いた。    

まさか小3の頃に一度だけ学校にきたあの子が今隣にいる柏木さんだなんて。

それも宮城と神奈川というかけ離れた地でのまさかの再開。(柏木さんは気づいてないけど)

それにしてもだいぶ変わったような気がする。

胸元まである綺麗な黒髪はもちろん、表情もあの頃とは違い、常時にこにこしていて活気に溢れている。


 いろいろと考えたが俺があのとき話しかけた少年だと名乗らないことにした。

理由は自らあの少年が俺だと言ってもなんかかっこ悪いし、恩着せがましくなると思ったからである。

それにしても柏木さんはすごい、背中だけで俺だと分かったのだから。


ピロンッ

携帯の音が鳴った。

確認してみたけど俺じゃなかった。

どうやら柏木さんの携帯が鳴ったらしい。


「あ、お母さんからだ」

携帯を見てそうつぶやいた。

「クスリ飲む時間過ぎちゃうから早く帰って来なさいだって。そうだ、忘れてた!」

「クスリ?」

「うん、病気は治ったんだけどまだ飲まないといけないらしくてね。12時と18時半に飲むように言われてるんだ。」

「そうなんだね」

スマホの時計を見てみると時刻は17時45分だった。

「間に合わないかもしれないっ」

柏木さんもスマホの時間を見てそう焦り口調に言った。

「できるだけ急いで帰りますか」

そう言い俺と柏木さんは駅へと小走りで向かった。


江ノ島をでて、最寄り駅の片瀬江ノ島駅についたときには丁度18時をさしていた。

「うわー!すごーいこの駅」

彼女がなにに驚いているのかというとこの駅の風貌。

竜宮城をイメージして作られたなんともいかつい建造物である。

て、そんなことどうでもいい。

「見惚れてる場合じゃないよ、急がなきゃ」

「あ、そうだごめんっ」


改札を通り駅の中へと入る。

中はいたって普通だ。

「柏木さんも藤沢駅のほうだよね?」

確か柏木さんは藤沢の方に住んでると言っていた。

「そうだよ」

「じゃあ一緒だね」


5分後きた藤沢行き江ノ電へ乗った。


走り始めて数分、柏木さんはずっと窓の外の景色を見ている。


「ねえ、すごい!この道路のなか走ってる」

「路面電車だからね」

「へえ!すごい」


そうこうしているうちに藤沢駅へとついた。

時刻は18時29分。

もう間に合わないか。

「ここから何分くらいで家につくの?」

「15、いや20分くらいかな」

「まあまあ遠いね」

「うん」


ピロンッ

するとまた柏木さんの携帯がなった。


「お母さん、この近くまで車で迎えに来てくれたみたい!」

「おお、それは良かったね」

「うん、今日はほんとにありがとね。始めて友達と遊べてほんとに楽しかった」

「俺もこんな楽しい日は久々だったよ」

「そうだ、ライン交換するの忘れてたね。

 しよっ!」

「うん、しよう」

こうして俺は初の同級生の連絡先を手に入れた。それも美少女の。


「じゃあ、また明日」

「おう、また明日」


別れの挨拶をし柏木さんは母親のまつ車へと向かっていった。


「すごい奇跡だったなー」

干渉に浸りながら俺は帰路をとぼとぼと歩いていく。

あ、そういや聞き忘れてたけど柏木さん何組なんだろ。

できれば一緒のクラス。は避けたい。

俺がいじめられてる惨めな姿を見られてしまうからな。

聞いてみるかと思い。ラインを開く。

New友達の項目に柏木さんの連絡先がある。

アイコンはさっき俺と撮ったツーショット写真。

まあ明日になれば分かることか。

そう思いスマホの電源を切った。


家の前へとつき懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。

「ただいま」

「おかえり〜奏太、いつもより遅かったなじゃん。なに?彼女と放課後デートでもしてきた?」

こう、俺をからかいながら料理をしているのは俺の姉。

母親は6年前に交通事故でなくなり、父親は病院で働きづめなため帰ってくる日のほうが少ない。

かくして、この家は俺と姉ちゃんの二人で暮らしている。

「んな訳ないだろ〜?くんくん、おっこの匂いは肉じゃがだね」

「正解、お母さんのレシピを参考に作ったんだ〜」

玄関前で匂った懐かしい匂いの正体は肉じゃがだった。

お母さんが亡くなってからは姉ちゃんがよくご飯を作ってくれるようになった。

大学があるときは基本スーパーの弁当とかだけど、姉ちゃんの作る料理はお母さんの味と似ていてすごく好きだ。

姉ちゃんはよくお母さんに料理を教えてもらってたからそれが味の似てる理由だろう。


「いただきます」

まずは、じゃがいもを食べその後肉を口に入れる。その勢いで白飯をかきこむ。

「うまい、うまいよねーちゃん!」

「えへへ、ありがと」

俺の勢いはとまらず、肉じゃがも白飯も二杯目のおかわりをした。

「奏太、やっぱなんかいいことあったんでしょ〜?」

姉ちゃんが見透かしたような声で聞いてくる。クッ、これだから感のいい姉は。

「な、なんもないってば……」

「うそーなんかいつもと違うもん。

 こう、雰囲気というかさ。

 いつもはなんかやさぐれてる感じだけど

 今日は顔が終始ニヤついてる。」

「まじ?気をつけなきゃ」

「やっぱなんかあったんでしょー

 姉ちゃん気になる〜

 やっぱ彼女?彼女とかできたの?」 

また始まったよ、事あるごとに彼女はできたの?と聞いてくる。俺は姉ちゃんと違って全くモテないっつの。むしろ冷ややかな目で見られる毎日だわ。

「だからできてないって。

 まあ、いい事はあったけどね……」

「その子姉ちゃんに紹介しなさい!

 審査してあげる」

「だから、彼女いないって!

 姉ちゃんこそモテるんだからとっとと彼氏

 見つけて結婚したら?」

「なにー?そんなに姉ちゃんにいなくなってもらいたい?」

「べつに、そういうわけじゃねーよ」

「そう、少なくとも奏太に彼女ができるまでは姉ちゃんがいてあげるからね」

「きめー」

前々から思ってたがうちの姉はブラコンなのかもしれない。






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