第3話 かわいくなるよ

 神社を3つほど周り、休憩するためにウッドデッキへときた。

ここは相模湾の海が一望でき富士山までも見えるというまさに絶景ポイント。


 俺は木のベンチへと座ったが柏木さんはウッドデッキの手すりに手をかけ腰を浮かしながらいろいろと眺めている。


「ねえ!見てあれ富士山でしょ!」

「富士山だね、晴れたからよく見えるね」

昼ごろまで雨が降っていたが今は雲ひとつない快晴。富士山もよく見える。

「うん、きれいだね」

「そうだね」

「あ、そうだちょっと待ってて」

そう言うと小走りでウッドデッキを出ていった。

どこへ行くのかと思ったが後ろにある自販機の前で立ち止まっていた。

そりゃ喉も乾くか、あんだけ歩いてたこせんべいも食べたのだから。


 柏木さんが戻ってくると、両手にはカルピスとスポーツドリンクを持っていた。

「どっちがいい?」

「くれるの?」

「うん、さっきのたこせんべいのお返しって訳じゃないけど、喉乾いたでしょ?」

「うん、ありがとう」

そう言い俺はカルピスを受け取った。

「あはははっやっぱカルピス選ぶと思った」

「え、、なんで?」

「なんかカルピスって顔してるからっ」

「なんじゃそりゃ」

まあよくわからなけど楽しそうだからいいか


「せっかくだから写真撮ろうよ!」

スポーツドリンクを3分の1くらい飲み終え柏木さんはそう言ってきた。

「この背景をバックに」

「いいね、撮ろうか。じゃあスマホだして」

「分かった、はい」

俺はスマホを受け取り、カメラを開く。

そして「はい、チーズ」と合図を言った。

柏木さんは笑顔でピースを作る。

「て、ちがーう!!」

「ん?違うって?」

「一緒に撮るのよっ、当たり前でしょ?

 こんなちゃんと自撮り台まであるのに。」

写真なー。気乗りはしないけどここまで頼まれたら断るわけにはいかない。

「しょうがない、撮るか」

「しょうがないってなによ、さっさとここにたって」

俺は言われるがままポジションへとたった。

柏木さんは俺からスマホをとり、10秒のタイマーをかけ、自撮り台にスマホを置き

俺の隣へとたった。

「ほら、ピースしてっ」

「あ、うん」


カシャッ


 どうやら撮れたみたいだうまく撮れてるといいが。

柏木さんはスマホを見て言う。

「うん、バッチリ!」

「見せて」

「はいっ」

おお、中々よく撮れてると思う。

柏木さんがね。

俺は、まあ陰キャだから映えるもくそもないんだけどね。

「よく撮れてるね」

一応そう言っといた。

「ねえ、これラインのトプ画にしていい?」

「い、いいけど大丈夫なの?」

「なにが?」

「その、友達に見られたりとか……」

俺みたいなのと一緒に写った写真を柏木さんの友達が見たら多分引くだろう。

引っ越したとはいえ、まだ関係はあるだろうし……。

「平気だよ、ライン家族しかいないし」

え、嘘。意外すぎる。

引っ越した際に全部消したとか?

そうしか考えられない。これは偏見かもしれないが、こんな美人で人当たりのいい子に友達がいないはずがない。

「そ、そうなんだ全然OKだよ、トプ画にしても」

雰囲気が悪くなるかもしれないと思い、その話題には触れなかった。


 柏木さんは猫のトプ画から俺とのツーショットの写真にしてさぞご満悦の様子だった。


こんな陰キャと一緒に江ノ島きて、たこせんべい食って参拝して写真撮ってなにが楽しいのだろうと自分ながら思う。

「あのっ、柏木さん」

「なに?」

「なんで、俺なんかに声かけてくれたの?」

俺はいつの間にかそう聞いていた。

「なんで、かー。強いて言うならわたしが一日でも早く友達が欲しかったからかな」

「柏木さんは今までどんな学校生活を送ってきたの?」

聞いてもいいのかとも思ったが俺の口はべラベラと言葉を垂れ流す。

お互いベンチに座ったまま、やや重い空気が漂う。

やっぱまずい質問だったのかも。

「わたしね、ほとんど学校に行ったことがなかったの。だから、友達っていうのにずっと憧れてたんだ。」

「その、理由聞いてもいい?学校に行かなかった理由。」

「うん、行かなかったっていうより行けなかったんだ。わたし小さいころから白血病っていう病気持ってて、簡単に言うと血液のがんだね。子供でこの病気になるのはかなり珍しいみたい。だからずっと病院生活だったんだ。」

結構重い内容だった。

なんて言ったらいいか言葉が見つからない。

「それは、大変だったんだね」

聞いておいてこんな安っぽい言葉しか見つからない。情ない。

「うん、大変だった苦しかった。でも今が楽しければいいや。ってそう思うの。」

「今、楽しいの?」

「もちろんだよっ、始めて友達できて、一緒に出掛けて、手繋いで、食べ歩きして、参拝して写真も撮って楽しすぎたよっ」

「そ、そこまで言ってくれるとお、俺も嬉しくて…………」

俺の目からは涙がでていた。

ポツリポツリと木の床に落ちていく。

「泣くことないでしょー、もう。」

「はは、ごめん」

「それと、わたしが奏太に声を掛けた理由もう一つあるの。」

「もう一つ……なに?」

「それはね、わたしを救ってくれた人の後ろ姿に似ていたからだよ」

「似ていたから?どういうこと?」

「小3くらいの頃にね、体の調子がよくなった時期があって一回だけ学校に行ったの。

だけど、周りはみんな知らないし、物珍しさかわたしの被っているニット帽をとってハゲだーとかばかにする人もいてね、一瞬で学校が嫌いになったんだ。

でもね、わたしの席の隣の子が優しく声をかけてくれたんだ。

『あんなやつら気にするなよ?髪伸びたらかわいくなるよ。今もかわいいけどね』

って。わたしは顔をうつ伏せにしてたからその人の名前も顔もしらないけど、教室から出ていく後ろ姿だけは覚えているの。

彼がわたしを救ってくれた、彼のおかげで辛い入院も手術も頑張ることができた。

会えるなら、会ってたくさんお礼を言いたいな。」


 ちょい待てよ。俺はその話を聞いて思った。その話、俺の記憶の片隅にもあるのだ。ある日ニット帽を被り、やせ細った少女がある日クラスへときた。転校生かと思ったが先生が言うには最初からこのクラスの子で今まで何らかの病気だったが体調が良くなったため学校へ来れたという。そして少女は俺の隣にある空席へと座った。

そしてその後の昼休み事件は起こった。

昼休み中先生がいなくなり、クラスの男子どもが少女のニット帽を取り、ばかにする。

なんとかニット帽を取り返した少女は泣きながら自分の席につき、顔をうつ伏せにして泣いていた。

完全に俺が小3の時にあった出来事だ。

そして泣いている少女に俺は声をかけた。

俺の親父は医者だったからそういう症状を持つ者をばかにするなと言われてきた。

むしろ優しくしろと。

だから俺は少女に声をかけた。

自分ができる限りの優しい言葉。

だが一つミスった。

髪伸びたらかわいくなるよ。は今はかわいくないみたいじゃないか。

だから今もかわいいけどねと付け足したのだ。

その後、俺はトイレへと行き教室に戻ったら少女の姿はなかった。

先生は「体調が悪くなったので帰った」と言っていた。

そして少女が学校に来ることはもうなかった。


「その人は多分君がかわいくなることを知っていたんだね」

「な、なにそれ、ちょっと照れちゃうよ」

俺は敢えて知らないふりをした。

これでもし俺じゃなかったとても恥ずかしい。一応確認だけしておこう。

「柏木さんってその時どこに住んでたの?」

「宮城だけど、それがどうかした?」

うん、確実に俺だ。

父親が藤沢の病院に転勤することになって俺は宮城からここへ引っ越してきたのだ。

「いや、なんで宮城からここに?」

「わたしの病気、東京の病院でしか治せないらしくてね、それでこっちの方で住むことになったの。わたしはずっと病院生活だったけどお母さんたちは藤沢に暮らしていたから、わたしも退院したから藤沢に住むことになったんだ」

「そういうとこなんだ、退院おめでとう」

「いいよっ今更〜、退院したの半年前くらいだし、そこから途中受験とかしてやっと明日から学校に行けるから嬉しいんだ」

「友達、いっぱいできるといいね」

そんな小学生に言うような言葉でも彼女は笑顔でうんっ!と言ってくれた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る