第5話真面目に異世界で勉強をする

ツカサは正直休ませて欲しかったが、せっかくの機嫌を損ねるのはまずいと思い、大人しく付いていく。


すると急に目の前に重厚感のある木製の扉が現れた。


無機質な廊下が続いていたこともあり、明らかにそこ扉だけが目立っていた。


Dr.ワクテがその扉を開くと、その先には


大量の本が巨大な本棚に収まっていた。


「さぁ、君には今からここで魔法に付いて覚えてもらう。」


そう言って、いろいろなところから分厚い本を持ち出してきた。


ツカサは内心、魔法も本当にあったのかと驚いていた。


「おそらく君たちは魔法についての知識が全くない。そうだろう?」


そう聞いてきたDr.ワクテに対して、ツカサは隠すようなことでもないので素直に頷く。


しかしツカサはなぜ自分が魔法という存在を知らないということを黒髭くんが知らなくて、Dr.ワクテにはわかるのか。

そのことがかすかに脳裏に引っかかったが、Dr.ワクテが話し始めたのでたかがそのことについて深く考えることはなかった。


「だからまたもに戦えるように魔法を使えるようになってもらわなければならない。」


さらにDr.ワクテは話を続ける。


「本来なら適性を調べたいところだが…、まぁこの5冊を読んで何か一つでも魔法使えるようになれ。これは命令だ。期限は今から3日だ。

そしてもう1つ、その君の首に浮かんでいる<継承者>の証のことなんだが、その証が表す才能の内容は分かっているのか?」


ツカサは後半のDr.ワクテがほとんど理解できなかった。

辛うじて、刺青のことを何かに勘違いしているのだと分かったくらいだ。


Dr.ワクテは困惑しているツカサの様子を見て、奥からもう一冊本を取り出してきた。


「これも読んでおくといい。まさかこの本が役に立つ時が来るとは思わなかったな。」


そう言ってDr.ワクテは部屋を出て行った。


ツカサはDr.ワクテが部屋を出て行ってから、ふと呟く。


「魔法が存在し、おそらく魔物も存在する。となれば今の状況は誘拐じゃなく、オタ組の本でもよく書かれていた"異世界転移"っていうのが起きたっていうことでいいのか?才能やら<継承者>やら言っていたしな。」


ツカサは自分で言っておいてその話にあまりに現実味がないことは分かっていた。

しかし山の中にいた時に見た謎のオーロラがその考えの信憑性を底上げしていたのだ。




一通り現状について推測したツカサは次に自分と同じくこの場所に捕らえられているであろう3人のクラスメイトについて考え始めた。


もしここから脱出するとしたら、助けに行くべきかどうか……


少し前のツカサなら考えることなく「助ける」方を選ぶであろう2択を悩むツカサ。


ツカサの思考は時が経つにつれて、冷静さが増していた。


クラスメイトたちは精神を病んでしまうような異・常・で・し・か・な・い・こ・の・状・況・で・だ・



ツカサは自分自身でもこの状況においてなぜここまで冷静でいられるのか、なぜ恐怖や混乱が日に日に感じなくなっていくのか分からなかった。


しかし頭は、体は、この状態をどこか懐・か・し・い・とまで感じているような気がした。

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