第52話 第十章 Sloth(怠惰)
ノブレス・オブリージュ美術館の入館料は金貨18枚にもしていて、とてもじゃないが普通の仕事では当然、毎日美術品を観て回るという贅沢はできないのだ。だから、着飾った人々はホワイトシティでも裕福層の人々。つまりは貴族の人たちだった。
そんな貴族の人々に対して、ヘレンはいつも大変な神経を使う接待をしているんだなとモートは思った。
そして、モートは母の絵をしばらく見つめた。
「母さん……今はまだ何も思い出せない。けれど、きっとあの時……ぼくと共に……死んだんだね」
モートはその時、ふと何かを感じ黒い魂の居場所に目が行った。
このサロンの13枚の美しい女性の絵の中央に位置した絵画の向こう。
ここノブレス・オブリージュ美術館から遥か南の方のヒルズタウンにある建物に、黒い魂を持つものが一人いた。
モートは何故か懐かしさを覚え。口に出していた。
「ギルズ……」
ギルズは強欲の書で、グリーンピース・アンド・スコーンの組織を牛耳るボスの名で、オーゼムが逃がしてしまった男だ。
モートは何か胸騒ぎがして、奇妙な感覚を覚えた。
「憤怒の書。サタンがあるな……ギルズがあの猿の集団を召喚していたんだ! オーゼムはまだ来てないけど、すぐにぼくが行かないと。大勢の犠牲者がでてしまう! 後のグリモワールは怠惰のベルフェゴールと傲慢のルシファーだ。このどちらか、あるいは両方ともを警戒しないと……怖いけど行くしかない」
モートは一枚の絵画からずっしりとした銀の大鎌を持ちだし、瑞々しい花の飾られた大扉を通り抜け、シンシンと雪の降る外へと向かった。
真夜中の天空には顔馴染の白い月が昇っていた。昔のことだった。いつだったか、ぼくが農作物を夜中まで運んでいた頃に、あの白い月とぼくは友達になったかのようだった。姉さんは夜空が明かりがない夜道を、きっと白い月で足元を照らしてくれているのよ。と白い月の恵みを言っていたっけ。
白い月とは不思議と親近感が湧く。
ぼくには意外なほど不思議な力が小さい頃から備わりすぎていて、あの殺戮の日にも夜空に髑髏と白い月が浮かんでいた。その髑髏もぼくを時には逃がしたり、時には人々の魂を僕を守るために喰らった。
そう、ぼくの母は古からの有名な魔女だった。
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